【前編】人民元のデジタル通貨発行で中国が世界金融に及ぼす影響とは?

中国は人民元(RMB)をデジタル化したステーブルコイン「DCEP(デジタル通貨/電子決済)」を年内にも発行するという観測が強まっています。実現すれば世界初となる法定通貨のデジタル版となり、世界の金融システムを大きく変える可能性がある大きな出来事になります。

DCEPは、中国国内の決済を根本的に変革するだけにとどまりません。国際決済にDCEPが進出すれば、ドル支配が続いてきた世界の金融経済システムは、中国がイニシアチブを握り、否が応でも人民元が世界の準備金としての地位を確かなものにします。日本もDCEPについて、対岸の火事と見過ごすことはできません。

中国人民元のデジタル化はリブラやヴィーナスなどと深い関係

英国の金融メディア、ファイナンスマグネート(Finance Magnate)は2019年9月6日付で、「China’s Stablecoin is Likely the Only One the Country Will Allow(中国が承認する可能性のある唯一ステーブルコイン)」と題する分析記事を掲載しました。同記者の分析は意味深長であり、ここで2回に分けて紹介しましょう。

ステーブルコインの開発は、Facebookが6月に「リブラ(Libra)」の発行計画を発表して以来、今や世界の関心の的になっています。その後わずか3カ月、今度な世界最大手仮想通貨取引所バイナンス(Binance)が、リブラに対抗するヴィ―ナス(Venus)の発行計画を発表するなど、この分野の動きは急です。

11月11日DCEP利用開始報道は否定されたが、準備完了との公式発言

中国のDCEP開発は、人民銀行の当時は決済副部長(現在は新設デジタル通貨部長)ムー・チャンチュン(Mu Changchun)氏が8月10日、DCEP発行の準備は整ったとの発言で存在することが最終確認されました。ムー氏はその際、国内小売業の多くは人民元そのものの価値を求めている事実を挙げて、DCEPは即実行は難しいとの見解を示しています。

Forbes誌は8月27日、元中国建設銀行の世界金融戦略部長の発言を引用して、人民銀行は以下の金融機関や関連企業にDCEPを配布して試験的運用を開始すると伝えました。それら銀行と関連金融機関は、中国工商銀行と中国銀行、中国農業銀行、アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent)、 中国銀聯(UnionPay)です。これら金融機関は、11月11日の国内の消費が活発になる「独身者の日」から、DCEPの利用を開始すると伝えられています。しかし人民銀行は、Forbes誌のこの報道を今のところ否定しています。

人民元をデジタル人民元に置き換える2層の移行システム

デジタル通貨は、技術的な詳細は一切発表されていませんが、最終的には現在流通しているすべての紙幣と硬貨を置き換えるという目標を持つ「2段階」システムに基づいていると伝えられています。バイナンスの調査リポートによれば、このデジタル通貨は、毎秒30万トランザクションを処理する能力を持つとされています。

多くのアナリストは、中国が発行するデジタル通貨はブロックチェーン技術に基づく仮想通貨ではないと疑っています。例えばアナリストのロジャー・ホアン(Roger Huang)氏はForbes誌に対して、「DCEPは真の仮想通貨というより中央集権型のデジタル通貨に似た多くの特徴を備えている。人民銀行は特別な監視付きでデジタル通貨を発行するというのが正確だろう」とコメントしています。

参考
China’s Stablecoin is Likely the Only One the Country Will Allow
First Look: China’s Central Bank Digital Currency

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