米国は仮想通貨規制でG20合意とは別の独自路線に?

米証券取引委員会(SEC)の法律専門家でコミッショナー(委員)のヘスター・ピアース(Hester Peirce)氏が、暗号資産(仮想通貨)の規制フレームワークは個々の国の事情で決めるべきで、世界の関係国が一致できる世界的フレームワークに依存すべきではないという見解を明らかにしました。

ピアース氏の見解は、G20財務相・中央銀行総裁会議が発議し、G20大阪サミットで実現を目指すことに合意した世界的な規制枠の実行が、容易ではないと考えていることを示したものとして注目されています。

米国独自のアプローチを示唆

2019年7月30日にシンガポールで開催されたシンガポール社会科学大学(SUSS)の「SUSSコンバージェンスフォーラム(SUSS Convergence Forum)」で講演したピアース氏は、これまで前向きな発言や意見で「クリプトママ(crypto mom)」の愛称で知られています。米国は世界の仮想通貨業界で影響力のある立場にあり、規制問題の方向性を決定づけることにも影響力を発揮しています。

ピアース氏は講演で、「仮想通貨の魅力の多くは、全世界の人々を共通の活動の中に結び付ける能力である。各国で規制が分かれることにより、規制上の摩擦が生まれてしまうものの、同時に規制下での健全な競争を生み、互いにそこから教訓を得ることができる」と強調しました。同氏の見解は、規制の異なるアプローチによって初めて、すべての利害関係者にとって最善の法的アプローチの発見につながるというものです。

国際的規制の作成は各国政府の対応から

まだ歴史が浅く、急速に変化する可能性のあるブロックチェーン技術は、世界の規制当局者にとって当初から難題であることが分かりました。ビットコイン(BTC)が初めて登場した10年前から、各国政府の対応として、全面禁止から様子見の姿勢まで、異なるアプローチを採用してきました。

ブロックチェーン技術とデジタル資産の設計上の大きな特徴は、世界中の場所を問わず、誰でも互いにアクセスでき、また協力できることです。非中央集権化は大きなテーマであり、特質的なセキュリティであるとともに、悪意のある人々に対する抑止力にもなる点でも効果を発揮します。非中央集権化は、ブロックチェーン技術に基づくネットワーク参加者にとって本来有利に働きます。

しかし一方で、規制管理下外の影響からマーケットを管理・保護することを目指す規制当局者にとって、非中央集権化は大きなリスクにもなります。

ピアース氏の表現によれば、「多くの資産すなわち通貨、商品、証券、デリバティブの本質については意見が分かれ、1つの見解にまとめることは難しい。従って、学者や規制当局者は、デジタル資産について国境を越えた問題を深く考えている」ことになります。世界的基盤で有効な、国境を越えた規制フレームワークを作成するためにも、ピアース氏の言うこれらの問題は、最初から各国政府によって対応されなくてはなりません。今年のG20大阪サミットは、そのための世界的な規制フレームワークの作成に合意しました。

規制の遅れを暗に認める

ピアース氏は結論として、「国際的に唯一の規制フレームワークを作成することは、私は賢明ではないと考えている。規制当局者は情報を共有することによって、新しい市場を成長させる健康的な環境を生み出すことができる。それによって国境を越える取引が円滑に行われるとともに、不正行為やその他有害な活動を一掃することができる。また、相互に学習を続け、自国における規制の不備を埋めるとともに、必要に応じて、他国で作成されたテスト済みのフレームワークも参考にしていく」と語りました。

ピアース氏のこれらの発言は、SECが新たな規制フレームワークの作成が困難な状況に追い込まれており、そのために作業が遅れていることを示唆しています。

参考
Renegade Pandas: Opportunities for Cross Border Cooperation in Regulation of Digital Assets

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