今回は、微量採血デバイスを開発する、株式会社マイクロブラッドサイエンス代表取締役の大竹氏の意見を交えた執筆記事になります。

プロジェクト発足に至った背景、予防医療に関する課題や、トークンエコノミーをそこに取り入れることでどのように課題解決が図られるのかなどをテーマに、医療の専門家からみた意見をお伝えします。

大竹 圭(Kei Otake) 株式会社マイクロブラッドサイエンス 代表取締役 MBS LABTECH PTE.LTD. DIRECTOR

1973年に米国に生まれる。

幼少時に帰国、家業である貿易会社に勤務し、世界中の輸出入のビジネスを学び、出生地である米国と日本間のビジネスに興味を持ち渡米、現地で飲食店のオーナーを経て、取引先である最高峰のオーガニック農場CHINO FARMと契約し、健康食材を取り入れたライフスタイルに感銘を受ける。

帰国後、健康的な食生活と最先端のフィットネスを組合わせたパーソナルトレーナーとして活動を開始、フィットネス競技であるBest Body Japanにおいて40歳代のマスターズクラス2013年ノービス大会優勝、日本大会5位の成績を収める。

自分の健康状態を知る上で最も重要である血液検査への関心から、東京医科歯科大学との共同研究に参画、その後、東京医科歯科大学発のベンチャー企業マイクロブラッドサイエンス社に招かれ、研究、営業部門を担当し、簡便な微量血液検査を普及させ、トークンエコノミーの実現により、健康をテーマとする社会課題の解決に取り組む。2019年6月より代表取締役を務める。

一般社団法人身体運動科学ネットワーク会員。

血液検査×トークンエコノミー、ビジネスモデル着想の背景

私たちは現在、血液検査の簡易化にトークンエコノミーを活用した事業を展開しています。そこでまずは、血液検査とトークンが繋がった原点からお話しします。

MBSの事業のメインとして現在血液検査が中心ですが、そもそもの発端はとても繊細である血球を壊さずに採決を可能とした採血デバイスを開発したことで特許も取得しています。こ の採血デバイスあることが僕らの全ての事業の原点になります。

当初私たちは、このデバイスを乳幼児や子供たち、入院等で毎日採血検査をしなくてはいけない老人など、そういう方たちの負担を軽減したいという思いで作った商品であり、自分たちは医療機器メーカーとしての自負もあります。

そして、それをもって100年近く変わっていないという採血方法に革命を起こそうと思っていたのですが、事業を展開している間に様々なハードルに直面し、業界への参入の難しさを実感しました。それでも、これを使えば医師も看護師も場所を問わずにどこでも血液検査ができる、そしてどこでもできるということは、予防医療を使って世の中を変えることが出来るという考えに変わりはありませんでした。

その考えを通して気づいたのが、完全な医療データとしてではなく、健康な人たちの血液データを集められることが重要であるということです。

データの価値というものを全て会社の儲けに繋げるのではなく、ユーザーに還元することで、現状ユーザーが負担している血液検査代金をユーザーの負担なしで提供することができるのではないかという発想に至りました

ユーザーの負担ゼロで血液検査ができる未来

私たちがそう考えるようになった頃、タイミングよく台頭し始めたのがブロックチェーンです。そこで、私たちも個人情報を切り離した血液のデータをブロックチェーン化し、公平・公正に一元化されたデータを健康関連企業に販売することができればその利益をユーザーに還元することが可能になるのではと思いました。

トークンを使えば少額決済、流動性の向上、手数料の減額などが可能になり、血液データを提供したユーザーに還元する形で血液検査の値段を下げることが可能です。

トークンエコノミーで目指すのは「みんなが得をする仕組み」

日本では、国内の保険制度が充実していて医療レベルも高いので、病気になってから病院にいけばいいと考える傾向があります。

日々健康に気をつけて活動していれば将来的な病気のリスクを低減することが可能となります。例えば、定期的に検査して自分の体が良い状態であるように意識していれば、重大な病気にかかる前にそのリスクに気づく可能性はかなりたかめられます。病気の早期発見により通院や入院する期間を短縮出来ることで精神的に、あるいは金銭的にも時間や手間を費やす必要が低減されます。

私たちは、不健康な生活に対する医療費の還元の結果、医療費が高騰するというような状況を逆転させたいと考えています。皆さんが健康を意識することで、全員が得をする、そんな社会をつくりたいと考えております。

そこで、積極的に健康活動をしてもらうためにはどのような仕組みが良いかと考えた時に、私たちがたどり着いたのが、トークンエコノミーの活用でした。

私たちは提供してもらったユーザーの血液データや行動履歴を活用してユーザーに還元出来るような様々な仕組みを構築していきます。

トークンでみんなが検査を受けたがる社会に

そのようなトークンエコノミーのアイデアが浮かんだときに川本さんと出会い、このアイデアを実現するための手段として「バウンティ」という仕組みについて話し合う機会が得られました。

お話を聞いた時に感じたのは、人々がどのようにしてトークンをつくり、経済圏を形成していくのか、その起爆剤になるようなイベントやその行為そのもののおもしろさをバウンティは秘めているということです。

また、このときにイメージしたトークンエコノミーならシンプルに実現できそうだと感じています。検査結果がよくなかった人たちに対しては、お見舞いのような気持ちでポイント(コイン)を還元する。そのコインをもらったユーザーは、もちろん再検査をしてもいいですし、より精密な検査を受けるために使ってもいいでしょう。

しかし、それだけでは多くのユーザーには利用してもらえず、トークンの循環や利用の頻度は弱くなってしまいます。

確かに、私たちが想像している医療環境を実現するための手段として、トークンエコノミーやバウンティはとても有効です。

ただ、より多くの人々に健康になってもらうためには、その人たちが参加したくなるような経済圏をつくり、トークンの循環を向上させる必要があります。そうなれば、みんなが血液検査を受けたくなるでしょうし、多くの人々が健康になっていくでしょう。

生体検査ゆえの課題をインセンティブ設計で乗り越える

血液検査を普及させていく上で、検査をしたらどう得をするのかが見えないといった課題があります。

病気になってからよりも、その前から検査をしていた方がいいということはどの方にもなんとなくは伝わります。しかし、これを意識している人は、本当に3%もいないというのが現状でしょう。

果たして、そこを意識していない人たちに、この仕組みをどのように提供したら利用してもらえるのか。そのようなことを考えたときに、浮かび上がってきたのが、トークンでインセンティブを設定するという方法です。

そして、そのインセンティブでもっとも説得力を持つのが「現金化」になります。

血液検査をしたらお金がもらえるというのは1番大きなインセンティブでしょう。そのようなインセンティブがあれば、血液検査というものに対するハードルが低くなり、より多くの人たちが健康活動に取り組んでくれるのではないかと思います。

そこを考慮したインセンティブ設計は、自分たちのビジネスを回す歯車になりますし、それによって常に世の中の人たちに健康を届けることが可能になるでしょう。そして、そのような私たちが成し遂げようとしているビジネスに必要なものは、デバイス、血液検査にトークンと全てが揃っています。

そして、この状況を乗り越えるために必要なのは、トークンやバウンティを最大限に活用していくことです

トークンを発行することでデータに価値が生まれ、血液検査を無料で受けられるようにしたい。あるいは、その検査結果のデータを提供してくれたユーザーには、現金化できるトークンが付与できるようにしたい。

トークンやバウンティは、こういったことを実現できる可能性を秘めていて、それは3%以外の多くの人々にも健康活動に参加してもらえるきっかけになると信じています。

トークンエコノミーはガン大国の治療薬となるか

日本には国民皆保険があり、食品の品質も高いので、多くの方はそこまで不健康とは思わないで生活を送っている傾向があります。しかし、いざ不健康であると分かった途端、人々には健康を取り戻そうとする強い動機が発生します。ガンになった場合は特にそうでしょう。

日本人の死亡率1位はガンですが、どのようにすれば早期発見を促すことができるのでしょうか。そこで私たちが考えているのが、バウンティの中で、それまで健康になろうと活動してきた人たちにインセンティブを払い続けることによる、さらに検査を受けたいという動機付けです。

バウンティに参加することで健康活動に取り組み、頑張った分だけ報酬がもらえ、ポートフォリオにその行動結果が蓄積されることで自分のヒエラルキーが100万人中の何番目だと分かったら、それが承認欲求になります。

また、認められると、人はそれを維持しようとします。維持するために自分が健康であることを証明し、さらに検査を受ける。そのような形での動機付けが、バウンティの中で生まれるでしょう。

日本では、特定検診という健康診断を、国が無料で40才以上に提供していますが、無料にもかかわらず受診率は50%にも届きません。一方、日本人は二人に一人はガンになるという事実があり、そういった状況の中でも、健康診断が普及しない現状には、やはりインセンティブが必要でしょう。

そして、その先のさらに大きなビジョンとしては、全ての活動をスコア化することを考えています。

健康活動をスコア化することで、例えば保険料が安くなるなど、活動の継続で得をする仕組みまで設計する。絵は大きく描いた方が、色んな人を巻き込んでいくトークンエコノミーがつくれるでしょう。

予防医療にこだわる理由

なぜ予防医療にこだわるのか。それは、皆さんに得をしてほしいからです。

私はスポーツが好きですが、20代中盤から体力の衰えを感じて、ずっとトレーニングを積んできました。現在46才になりましたが、周りの40代と比べると体力はあるし、若くいられているので得をしています。

一方、私の周りでは、本当に40代後半になると体のあちらこちらで不調をきたして、不健康を維持してしまったために亡くなられた方もいます。そうなってほしくない、そういった自分の強い思いもあって、私はこの事業を立ち上げました。

会社の収益を考えるなら、病気になった人に向けたビジネスをした方が良いかもしれません。ですが、それでも私たちは予防医療の方が大切だと考えています。

現在の医療データは収集方法に統一性がなく、共有して活用することが難しい状況にあります。しかし、様々な人たちの、血液のデータを一元管理することができれば、とても価値のあるデータになります。

また、ウォーキングをしたり、スマートウォッチで様々な活動をアクティブトラッキングしてみたり、生体情報を取ってみたりなど、それらのデータに対してアドバイスをするというサービスも良さそうですが、もっとも明確に助言できるデータは血液です。

血液ほど正確に生体情報が入っているものはなく、長期的に血液データを集めていくと、その人の生体にはどのような傾向があるかがみえてきます。

手軽に簡便に出来る検査を継続的に行い、自身の今の数値を知ることにより、2回目以降の検査では、健康が悪化したことが判明し、少し生活を変えてみようと思うきっかけになるかもしれません。

私たちは、自分たちが構想するトークンエコノミーで、それぞれの人の生活に良い影響が与えられると信じています。

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