今回の記事は、「SBI R3 Japan」が公開しているMediumから転載したものです。
より様々な内容の記事に興味のある方は、是非こちらにも訪れてみてください。
はじめに
直近の当社連載記事では、ブロックチェーン(Corda)が金融業界以外においても、注目を浴びており、様々な取り組みがされていることを紹介してきました。 ※記事の内容については以下をご確認下さい。
・エネルギー業界×ブロックチェーン -Corda活用事例紹介-
今回の記事では、ブロックチェーン活用事例の大本命(!?)とも呼ばれている、貿易金融(トレードファイナンス)について、「貿易金融とは何か?」「貿易金融×ブロックチェーン」「Corda事例の紹介」という3つのテーマで紹介していきたいと思います。
貿易金融とは何か?
まず「貿易」という言葉について、説明いたします。 「貿易」とは、(解説するまでもないですが)他国の取引相手と商品の売買を行うことです。
「貿易」を国内取引と比較すると、以上の2点が大きな違いとして存在します。
①登場する関係者が非常に多い。 ②「必要書類(情報)」が多く、左記が「商品」「代金」の流れと直結している。
※以下の図が、貿易時の「商品」「代金」「必要書類(情報)」の動きを表したものです。
そして海外取引には、以下のリスクが存在しています。
①異なる国同士で取引することについてのリスク
- 言語の違いや商慣習、文化の違いに起因する認識齟齬が発生してしまう。
- カントリーリスクが存在する。(戦争、内乱、政治体制の変更などにより、輸出入や為替送金の停止などの事態に陥る可能性がある)
②信用リスク(代金回収リスク)
- 相手企業の信用度(財務状況、生産・営業能力、経験、誠実性等)の把握が難しい。
- 商品の授受と代金の支払いを同時に行うことは困難であるため、「前払い」「後払い」のどちらかになってしまう。
※「前払い」「後払い」のリスクについては以下の画像を参照願います。
③為替変動リスク
- 為替相場が不利な形で変動した場合、想定していた金額での売買が出来ず、得られる利益が減少してしまう。
④輸送リスク
- 商品の輸送距離、輸送期間が長いため、輸送中に事故にあったり、貨物の破損や変質があったり、あるいは盗難の恐れがある。
以上が、貿易取引を行う際の主なリスクとなります。
ただこのリスクを軽減するための助けとなるパートナーが「銀行」となります。「銀行」は貿易を行う企業に対して、様々な「金融」サービスを提供しています。今回はその中で、上記リスクを軽減させるサービスを2つ紹介したいと思います。
為替予約、通貨オプション取引
為替予約とは、将来において外国通貨の両替を行う際のレートを、あらかじめ現時点で決定させることができるサービスです。 このサービスを活用することで、将来の外国為替相場の状況によらず、決定した条件で外国通貨の両替を行うことが出来るため、上記③為替変動リスクを軽減させることが出来ます。
通貨オプション取引についても、(雑な説明ですが)為替予約と同様に、将来の両替レート(権利行使価格)を、現在時点で決定させることができるサービスです。為替予約との違いは、プレミアムと呼ばれる手数料を取引時に支払う代わりに、定めたレート(権利行使価格)で両替を行うかどうかを選択できることです。
L/C(Letter of Credit/信用状)
L/Cとは、「輸入者の依頼により、輸入者の取引銀行(信用状発行銀行)が、商品代金の受取人である輸出者に対して、輸出者が信用状条件通りの書類を呈示することを条件に、輸入者に代わって、代金の支払いを確約した保証状」のことを指します。
端的に説明すると、L/Cが発行されることで、上記②信用リスク(代金回収リスク)を軽減させることが出来ます。
上記特徴から、信用状取引は企業が貿易を行う際に、最も一般的な支払い条件となっており、2016年時点では、全世界の貿易の11~15%が、信用状取引を条件として行われています。(最も割合が大きいのは80%を占めるオープンアカウント取引ですが、この取引は形式としては単なる後払い取引なので、優良企業が買主の場合等、リスクが少ない場合に用いられている。) ※L/Cがもたらすメリットおよび、L/C利用時の貿易取引の流れについては以下の画像を参照下さい。
しかし、信用状を利用するデメリットも存在します。信用状の発行に手数料がかかることもその1つですが、最も大きな問題は、紙ベースの書類をやりとりするために、決済完了までのプロセスに非常に時間がかかることです。
この問題を解決する何か良い方法はないでしょうか? その答えが、ブロックチェーンの活用になります。
貿易金融×ブロックチェーン
まずは、前章で示した貿易取引およびそれに伴うファイナンスを行う場合に存在する問題点を整理してみしょう。
- 登場する関係者が非常に多く、決済完了までのプロセスに非常に時間がかかること
- その中で紙ベースのやり取りが行われていること
- 言語の違いや商慣習、文化の違いに起因する認識齟齬の発生してしまうこと
がポイントになるかと思います。
トレードファイナンス業界専門紙を世界で発行している「Global Trade Review」誌によると、現状「1つのコンテナを海上輸送するだけで、36種類、計240ページの書類を27人の関係者が介在して処理する必要がある。」とのことであり、現状の手続きがどれだけ非効率であるかご理解いただけるかと思います。
上記問題から、アジア開発銀行は、トレードギャップ(輸出者/輸入者が必要としているが、銀行が提供出来ていない金融ニーズの金額)が約1.5兆ドル(約160兆円)存在していると推定しています。
ここでブロックチェーンの特徴を、上記問題点にあてはめてみましょう。
- 登場する関係者が非常に多く、決済完了までのプロセスに非常に時間がかかること ⇒スマートコントラクト(契約の自動執行)による手続き時間の短縮
- その中で紙ベースのやり取りが行われている ⇒電子化した情報をやりとりすることで情報伝達が一瞬で行われる。
- 言語の違いや商慣習、文化の違いに起因する認識齟齬の発生 ⇒契約条件がブロックチェーン上に記録され、いつでも確認出来る状態にあるため認識齟齬が発生しにくい。
以上の通り、ブロックチェーンが既存の貿易金融における問題点を解決することがわかります。
このように貿易金融とブロックチェーンは非常に相性が良く、貿易金融自体の市場規模も大きいことから、様々なプロジェクトが進行しています。興味のある方は、日本経済新聞「貿易リスク軽減にブロックチェーン、米中摩擦で脚光」の記事をご覧下さい。(記事自体は約1年半前と古いので、各コンソーシアムの現在の状況は異なっていますが、概要や特徴についてはご理解いただけるかと思います。)
次の章では、弊社が推進している「Corda」をベースにアプリケーション開発が進められている、貿易金融に関するプロジェクトの紹介をしたいと思います。
Corda事例紹介/「Contour (旧Voltron)」
今回は「Contour」という信用状取引にフォーカスしているプロジェクトを紹介したいと思います。
(オープンアカウント取引にフォーカスしている「MarcoPolo」について知りたい方は、以下の記事をご覧下さい。)
「Contour」はつい最近「Voltron」から名称が変更された(ファンディングが終了し商用化を見据えたことが理由)プロジェクトで、数ある貿易金融プロジェクトの中で非常に注目度および知名度が高いです。開発については、香港のテクノロジー企業CryptoBLK、アメリカのコンサルティング企業 Bain & Company、そしてR3がパートナーとなり、進められています。また以下の海外大手金融機関が参画しています。
「Contour」の概要は以下の通りです。
企業側の導入メリット
- 情報(進捗状況等)をリアルタイムで取得可能
- 資金調達速度アップ(信用状発行速度アップ)
- デジタル化による貿易プロセスの生産性向上とコスト削減
- 取引の透明性向上
金融機関側の導入メリット
- ユーザーに対する利便性の高いシステムを提供することによる、顧客満足度向上および取引シェア増加
- 取引プロセスのデジタル化と生産性の向上によるコスト削減
- 取引の透明性向上によるコンプライアンス機能の強化
直近の実証実験では50を超える銀行と企業が参加し、複数のデジタル信用状取引シミュレーションを実施した。その結果参加者の96%が、「Voltron(現Contour)」は信用状発行のスピードを加速し、効率を改善、そしてコストを削減すると述べています。
このように「Contour」は、実証実験の参加企業から高い評価を得ており、2020 Q2 に予定されている商用化に向けて前進している状態です。
終わりに
今回紹介した貿易金融×ブロックチェーンのプロジェクトは、日本企業および金融機関からも積極的な参加があり、活発な動きがみられています。
三井住友フィナンシャルグループの三井住友銀行は、TradeIX社がCordaを用いて推進する「Marco Polo」プロジェクトに参加しており、協力体制の構築および分散台帳技術プラットフォームの活用・普及についての協議を開始するため、弊社 SBI R3 Japanへの資本参加に関する覚書を締結いたしました。(http://www.sbigroup.co.jp/news/2020/0131_11843.html)
上記からもご理解いただける通り、日本でもブロックチェーンを利用したビジネスが行われる時期がもう間近に迫っております。
本件「Contour」についても、 現在 Beta Network(準本番環境)を無料で利用可能となっているので、参加を希望される事業会社の方をお待ちしている状態です。
「Contour」および他貿易金融のプロジェクトについて、興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひこちらのページからご連絡下さい。皆様からのご連絡をお待ちしています。
(記事作成:SBI R3 Japan/浅野)