株式投資型クラウドファウンディング市場からSTOの将来を考える

証券をトークン化して売り出すSTO(セキュリティー・トークン・オファリング)がバズワードになって久しいです。すでに海外では多くのSTO案件が実施されていますが、2019年から2020年にかけて、より案件が多くなり、同時に規制が進む分野でもあるでしょう。

STOのマーケットが将来どのような進化を遂げるかについて、ベンチマークの対象となる業界の一つは、株式投資型クラウドファウンディングではないかと思います。

これらのプラットフォームでは、個人投資家が創業して間もない企業の株式への投資が可能であり、スタートアップはVC(ベンチャー・キャピタル)ではなく不特定多数の個人投資家に事業を説明して資金を得られるというメリットがあります。

株式投資型クラウドファウンディングは既に数年の歴史を持つ業界ですが、STOも、個人を対象に広く資金調達をできるようになるという側面は変わらない面があります。

株式投資型クラウドファウンディング市場

以下は、ファイナンシャル・タイムズ(Financial Times)による株式投資型クラウドファウンディングについて、詳しい記事です。
参考:Crowdfunding in search of the next Apple or Facebook

同記事によると、主要な株式投資型クラウドファウンディングプラットフォームのクラウドキューブ(Crowdcube)では、60%のユーザーは44歳以下、同じく株式投資型クラウドファウンディングプラットフォームのシーダーズ(Seedrs)では、80%のユーザーが50歳以下、 シンジケートルーム(Syndicate Room)では57%が45歳以下だそうです。

Crowdcubeでは、18-24歳のユーザーが、2016年に平均して年間306ポンド(約4万5,000円)を投資しているそうです。しかし、2018年には、平均1,577ポンド(約23万3,000円)にまで成長しています。

Syndicate Roomでは、18−24歳のユーザーの平均投資金額は1,646ボンド、2016−2018年で60%増加していると発表しています。Crowdcubeでは、プラットフォームがローンチして以来、EXITは9件です。これまでの同プラットフォームで調達をした企業が830社(2011年−2019年)なので、EXITまで到達した会社はおおよそ100分の1です。

Crowdcubeの画像
出典:Crouwdcube

カムデン・タウン・ ブリューワリー(Camden Town Brewery)というクラフトビール会社が、同プラットフォームで資金調達をした企業では、最初のEXITです。最近の成功事例として、フィンテックスタートアップのレボリュート(Revolut)がユニコーン企業になっており、クラウドファウンディング時点でのバリュエーションから約20倍まで上昇し、初期の投資家は大きなリターンを得ています。

いずれのプラットフォームでも、投資家を集める対消費者の企業が多いことが特徴です。また、既存のカフェやバーが事業拡大などの際に、既存の顧客に株主になってもらいたいという動機で、株式投資型クラウドファウンディングを利用することもあるようです。

今のSTOと、株式投資型クラウドファウンディング市場の違い

STOの場合、今の所、ブロックチェーン関連企業の資金調達や不動産をトークン化したものが多く、この点には違いがあります。現状、少なくともアメリカでは、STOは、RegDで適格投資家のみに販売するのが一般的です。

しかし、将来、RegA+などが適用になってくると、個人投資家にセキュリティートークンが販売できるようになります。それこそがSTOの目指しているところでもあり、株式投資型クラウドファウンディングと似たようなマーケットになる可能性もあります。

実際に株式投資型クラウドファウンディングで既に行われているように、対消費者の企業が、見込み顧客や既存顧客に、自社の製品を説明して、より強いファンになって投資もしてもらうということは、企業とユーザーにとって素晴らしい関係です。このメリットは、STOの文脈でも活かされるべき要素でしょう。

また、株式投資型クラウドファウンディングではユーザーの多くが若年層でしたが、恐らく新しい技術を使用しているSTOでも同じような年齢層のユーザーが主となる可能性が高いのではと思います。

さらに、STOの場合は、より中長期的には、個人投資家に小口で販売できること以外にも、コンプライアンスコストの削減や流動性向上の期待などがされ、これらを勘定して、株式投資型クラウドファウンディングとどれだけ違ったものになるかを予測することになるでしょう。

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