米老舗バーガーチェーン、決済導入で売上増。仮想通貨決済は実用段階へ
結論
2026年2月17日、米国のハンバーガーチェーン Steak ’n Shake がXで発表した内容は、ビットコイン戦略の現実を象徴するものでした。
同社は2025年5月、全米約400店舗でビットコイン決済を導入しました。
ライトニングネットワークを活用した決済を採用し、顧客は日常の食事代を暗号資産で支払えるようになっています。
従来のカード決済では2〜3%程度の手数料が発生しますが、ライトニング決済では手数料がほぼゼロに近く、数秒で支払いが完了します。
導入から約9か月が経過した現在、既存店売上は2桁成長を維持し、決済コスト削減という効果も確認されています。
一方で、保有するビットコインは取得価格を下回る水準にあり、数百万ドル規模の評価差額が生じています。
これらの数字は、実店舗ビジネスにおける暗号資産活用の可能性と、価格変動を伴う資産を財務に組み込むことのリスクという、二つの現実を浮き彫りにしています。
売上は確実に伸びている
同社および親会社の開示によれば、既存店売上は2桁成長を維持しています。
2025年第2四半期には10.7%増を記録しており、その後も成長基調は続いています。
COOのDan Edwards氏は、ビットコイン決済の導入により決済処理コストを約50%削減できたと説明しています。
一般的にクレジットカード決済手数料は2〜3%程度とされますが、ライトニングネットワーク経由の決済では手数料がほぼ発生しません。
この差は、取扱高の大きいチェーンにとって無視できないコスト削減効果をもたらします。
また、暗号資産に親和性の高い若年層の顧客を新たに取り込む効果も見られました。ビットコインをテーマにしたメニューや寄付プログラムなどの施策が、コミュニティからの支持を集めています。
ベンチャーキャピタルSigma CapitalのCEO、Vineet Budki氏は、こうした取り組みをデジタル資産を事業運営に組み込んだモデルとして評価しています。
準備金は取得価格を下回る水準に
一方で、Bitcoin Treasuriesのデータによると、同社は2026年2月時点で約161BTCを保有しています。
平均取得単価は約92,851ドルとされ、ビットコイン価格が6万ドル台後半で推移する現在、取得価格を下回る水準にあります。
時価は約1,100万ドルに対し、取得総額は約1,500万ドルと見積もられ、差額は数百万ドル規模となります。
なお、含み損益はビットコイン価格の変動により日々変化します。
同社は2026年1月、約1,000万ドル相当のビットコインを追加購入しており、その後の価格下落が評価差額拡大の一因となった可能性があります。
上場企業である親会社Biglari Holdingsの今後の決算報告で、会計処理の詳細が明らかになる見込みです。
ビットコインの価格変動は、会計上は資産価値の減少として評価損の計上につながる可能性がある一方、価格回復により解消され得る性質のものでもあります。
決済と準備金の二重構造
Steak ’n Shakeのビットコイン戦略には、二つの側面があります。
一つは決済手段としての導入です。
顧客がビットコインで支払った分はドルへ換金せず、「戦略的ビットコイン準備金」として積み立てられます。
この準備金は従業員への報酬制度にも活用される予定で、一定期間の勤務を条件にビットコインでのボーナスを付与する仕組みが発表されています。
もう一つは企業資産としての保有です。1月の1,000万ドル規模の購入は、決済収入とは別に企業資金を投じて行われました。
インフレ環境下における現金価値の目減りリスクへの対応として、価値保存手段としてのビットコインを選択した形です。
ただし、この戦略にはタイミングリスクが伴います。
購入直後に価格が下落すれば、財務諸表上の資産価値は減少します。
今回のケースはその典型例と言えるでしょう。
外食産業としての異例の試み
外食産業のような薄利多売モデルで、価格変動の大きい資産を財務に組み込む例は多くありません。
ソフトウェア企業のように利益率の高い業種と異なり、飲食チェーンは食材費や人件費などの変動費が大きく、利益率は数%程度にとどまります。
この状況で価格変動リスクを抱えることは財務上の課題となり得ます。
ただし同社の狙いは、短期的な価格利益ではありません。
決済コスト削減や準備金の活用を通じて品質向上や店舗改装を進め、顧客満足度を高める。
その結果として売上増加とビットコイン流入が促進される循環の構築を目指しています。
この循環が機能すれば、長期的には価格回復とともに評価差額の縮小も期待されます。
インフラと普及の課題
ビットコイン技術企業op_netの共同創業者Samuel Patt氏は、企業が決済手段としてビットコインを活用するにはライトニングネットワークのインフラ整備が不可欠だと指摘しています。
現状では価格変動の大きさや利用環境の制約が普及の障壁となっています。
Steak ’n Shakeの取り組みは例外的な試みであり、その成否は今後の市場環境やインフラ整備の進展に左右される可能性があります。
日本への影響と示唆
この事例は、日本の外食業界や小売業にも示唆を与えます。
日本ではキャッシュレス決済が急速に普及している一方、クレジットカードやQR決済の手数料負担は依然として事業者の課題となっています。
ビットコインのライトニング決済のように手数料負担を抑えられる仕組みが実用化すれば、特に利益率の低い業種にとって大きなメリットとなる可能性があります。
また、訪日外国人の増加に伴い、国際的に利用可能な決済手段の需要は今後さらに高まると考えられます。
暗号資産決済は為替手数料や決済の煩雑さを軽減できる手段として、観光地や都市部の店舗で導入検討が進む余地があります。
一方で、価格変動リスクや会計処理の課題、税制上の取り扱いなど、日本国内では制度面の整理が不可欠です。
決済手段としての利便性と、資産保有に伴うリスク管理は切り分けて考える必要があるでしょう。
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まとめ
同社は、分散型の現金創出モデルとビットコインの変革力を組み合わせる方針を示しています。売上増加という成果を上げながら、価格変動リスクも受け入れています。
これは単なるマーケティング施策ではなく、ビットコインを事業戦略の一部として組み込む意思の表れとも言えるでしょう。手数料削減や顧客層拡大という実利を得る一方で、価格変動リスクも引き受けています。
創業90年を超えるハンバーガーチェーンがデジタル資産を財務戦略に取り込む。この前例の少ない挑戦が外食産業にどのような変化をもたらすのか。評価差額の解消には時間を要する可能性がありますが、売上増加という実績は、他の企業にとっても注目すべきデータとなりつつあります。
参考資料
CoinDesk
https://www.coindesk.com/
Yahoo Finance
https://finance.yahoo.com/
PYMNTS
https://www.pymnts.com/
Bitcoin Treasuries
https://bitcointreasuries.net/
Lightning Labs
https://lightning.engineering/
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