フロントランニングを利用?DEX(分散型取引所)で活動するBot

リスクフリーで利益を得れてしまうBot

コーネル大学の研究機関が「フラッシュボーイズ2.0:フロントランニング、トランザクションの並べ替えと、分散取引所における合意の不安定性」(Flash Boys 2.0: Frontrunning, Transaction Reordering, and Consensus Instability in Decentralized Exchanges)という論文を発表しました。同論文では、マイナーによるフロントランニングを利用したDEX(分散型取引所)での不公平な取引を論じています。

現在のDEXは、オーダーブック自体がゼロエックス(0x)などのオフチェーンを活用していても、最終的な決済はオンチェーンで行います。フロントランニングとは、マイナーがDEXでの取引トランザクションをブロックに取り込む前に、先回りしてしまうことを指します。

現在、このフロントランニングを活用したボット(Bot)取引が、多くの利益を享受しているといいます。フロントランニングによるBotでは、トランザクションが決済されてブロックに伝播される前に、それを察知したマイナーが先回りしてオーダーを出し、そのマイナーが出したトランザクションはわずかに高いトランザクション手数料でマイナーに先にブロックとして取り込んでもらうことなどを行います。

これによって、このBotは原理的にかなり低いリスクで、トレードを毎回先回りして利益を享受できます。

論文のタイトルに用いられたフラッシュボーイズという表現は、作家のマイケル・ルイスの著作からインスパイアされています。マイケル・ルイスは、金融系のトピックを扱うノンフィクション作家で、「ライアーズ・ポーカー」、「マネー・ボール」、「ビッグショート」などが代表作です。

『フラッシュ・ボーイズ』は、10億分の1秒の超高速取引(HFT:High Frequency Trading)で、並みの投資家よりわずかに先に取引を執行し、合法的に勝率100%の金融取引を行う理系集団の実態を暴いた作品です。この内容におけるブロックチェーン版が、フロントランニングを用いたBotであるというわけです。

約500のBotがDEXで稼働済み

おそらく、このようなBotはオンチェーンオーダーブックのDEXの方が特に作用しやすいはずであり、実際に、イーサデルタ(Ethdelta)やバンコール(Bancor)などでこれらのBotが使われているといいます。論文の著者のリサーチによると、2018年に6つのDEXをトラッキングした結果、現在500のBotが稼働しており、毎日2万ドル(約220万円)程度を獲得しているであろうことが明らかになったとしています。

DEXのフロントランニング問題は、単一のサードパーティーを置かないで解決することは簡単ではなく、0xやBancor、ユニスワップ(Uniswap)など多くのDEXがこの課題を引きずっています。0xが間もなく実装をするTECでは一定の解決策が実装される予定です。

しかし、従来の証券市場において、賛否は多々ありますが、こういった超高速取引をマーケットメイキングのために必要であるという判断として容認している事実があります。DEXの世界においても、こういったマーケットメイキングを模倣したプロジェクトが立ち上がっています。詳細については、こちらのレポートで取り上げています。

現在はDEXでの取引流通規模は決して大きくはなく、このような問題は特に取り上げられていませんが、経済規模が大きくなるに従って、さらに議論がされるようになるでしょう。

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参照
Flash Boys 2.0: Frontrunning, Transaction Reordering, and Consensus Instability in Decentralized Exchanges(PDF形式)


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