Coinbase、自社で保険会社の設立を検討
コインベースが保険ブローカー大手Aon社の協力を受け、自社での保険会社設立を検討していることが報じられた。仮想通貨取引所の「保険の不足」に対する解決策のひとつとなるか注目される。

仮想通貨市場の保険に対する課題を解決ヘ

米最大手仮想通貨取引所コインベースが保険ブローカー大手Aon社の協力を得て、自社で保険会社を設立する交渉を進めていると業界関係者が米メディアCoinDeskに語った

「キャプティブ」(*1)を適用した保険子会社を設立することは、コストを削減し、再保険市場へのアクセスを改善するための古くからの手法だ。業界誌CPA Journalの2018年12月号の記事によると、ほぼ全てのFortune500企業と数千社にものぼる中堅企業がキャプティブを設立している。

*1 キャプティブとは
特定の親会社(含グループ会社)のリスクを専門的に引き受けるために当該親会社等により所有され管理されている保険会社のこと

▶CoinPost:仮想通貨用語集

CoinbaseとAon社は、このキャプティブの仕組みを、仮想通貨取引所の「保険の不足」に対する解決策になる可能性があると見ているという。

これまで(コインベースを含む)多くの仮想通貨取引所は、顧客の資金がハックキングされ消失した場合の損失をカバーするために、大量のコインを確保しておくことで自己保証をするというものだが、このアプローチの問題点として、正式なルールが存在していないため、資金使途に対するその他の誘惑や企業の実質的なカバレッジ(適用範囲)や規制面などが曖昧である点があげられる。

一方でキャプティブの場合は、資金は隔離され、規制された監査済みの媒体に保管されているため、企業は再保険市場からより多くの補償を受けることが可能だ。

Aon社によると、同社は今年に入って、匿名の顧客を対象に業界初のシステムを構築したとのこと。ケイマン諸島に拠点を置くこのキャプティブは、ホット(オンライン)ウォレットのハッキングや、コールドストレージ(オフライン)で保管されている仮想通貨のカバレッジをカバーする「Crimeポリシー」を作成するとのことだ。

コインベースとAon社は、過去にも協力関係にあった。Aon社は今年の4月、同取引所のホットウォレットでのカバレッジに約2億5500万ドル(約276億円)の支援をしていた。

キャプティブを選択する利点は

保険市場の価格が高すぎる場合、または保険会社が企業のリスクをカバーしようとしない場合は、資本および準備金の必要額を報告する自己保険の形式化にキャプティブが使用される。

Aon社のマネージングディレクターであるQuintal氏は、単純な自己保険ではなくキャプティブ保険を使う利点について、次のように述べている。

企業が自己保険をかけている場合、損失の100%を負担する責任を引き受けている。これとは対照的に、キャプティブは、企業が保険や再保険にアクセスできる手段を提供すると同時に、単に資本を留保するよりも正式な方法で自己保険の損失額を事前に調達する。

「このようなより正式で規制されたアプローチを取ることで、市場のキャパシティを増やすことができ、企業の保険プログラムをよりコントロールすることで、時間の経過とともにリスクファイナンシングの価格を下げることができる。

Aon社のキャプティブ保険責任者を務めるWard Ching氏も次のように話した。

仮想通貨企業であっても、請求権の大部分を保留しておかなければならず、余剰資金(予想外の金額の請求の場合に備えて積み立てられた追加の資金)に暗号技術が使われる可能性がある。

資産クラスに仮想通貨を含めることで、規制の要件を満たし、建設的かつ安全な方法で財務上の柔軟性を提供できることを、規制者に示すことがすべてだ。

クラーケンCEO|自己保証の設立について言明

大手仮想通貨取引所の多くが、ハッキングや損失に対して自己保険をかけていることは周知の事実だ。過去に問題となってきたのは、ハッキングに対する保険が法外に高価で、補償も限定的、そして実際に保険金を請求することが非常に難しいということだ。こうしたことから、仮想通貨企業は損失を処理するために自分たちのコインをコールドストレージで保存することをあきらめたのだ。

サンフランシスコに本拠を置く米仮想通貨取引所・クラーケンのJesse Powell CEOは、独自の保険基金を持つことを明かし、CoinDeskに「貸借対照表(バランスシート)は基本的に自己保険用の保険金とも呼ぶ」と述べた。

シンガポールに拠点を置くHuobiは2018年2月、「フォビ・セキュリティー・リザーブ」というセキュリティ問題が発生した場合のフォールバックメカニズムとして2万ビットコインを確保した。さらに、四半期ごとに取引手数料の20%をネイティブ・トークン(HT)の買い戻しに充てることで独自の保険基金として「Protection Fund」を設立した。

Powell氏は、仮想通貨企業に提供されている高額な保険金額の現状について批判しており、「良い取引はない」として、「人々がそれを支払うとは思えない」と述べている。

Powell氏によると、取引所は自己保険のかけ方が甘い傾向にあるという。

基本的に誰もが貸借対照表にこれらの資金を持っていて運用のために投資や運用をしていると思う」と彼は説明した後に、「私の知る限り、保険会社のように、管理されている資金がどのように分離され、別の事業体に保管されているかについて、何らかの監査や明確な報告を行った者はいない。」と付け加えた。

なおPowell氏は、キャプティブ保険会社を設立することにどのような価値があるのかを見極めるのに苦労したと述べた。これについてHuobiのGoodbodyは楽観的で、Aon社の計画を「市場にとって非常に興味深く、非常にポジティブだ」と述べている。

保険業界の革新者の中には、イーサリアムベースのNexus MutualやAonの別のパートナーであるEtheriscなど、保険業界の一部のイノベーターは、個々のキャプティブビークルを設置するよりも、問題発生時に備えてグループを集め、新たな再保険システムを作ることを提案している人もいる。

「取引所同士で共同保険のようなことをすることも考えられる。しかし、競合他社にすべてを監査してもらう必要があるため、難易度が高すぎる。」と同氏は語った。

Aon社のChing氏は、仮想通貨企業が自己保険業者のグループを集めて統合することは「自明の理」であるとして同意した。

それらは異なるリスク許容度、異なる資本構造および異なるセキュリティメカニズムを有する。彼らが調和するまで、グループをキャプティブにまとめるのは難しいだろう。ただし不可能だと言っているのではなく、道が険しいということである。

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