ドル紙幣にこだわる米国はキャッシュレス社会を迎えることができるか? 

ワシントンベースの政治記事メディアのロールコール(Roll Call)が、米国政府は「キャッシュレス環境」に転換する初期段階にあると伝えています。言い換えれば、米国民が日常生活の中で、現金あるいはクレジットカードで電子的に決済する代わりに、暗号資産(仮想通貨)を利用する代替決済手段が台頭する可能性があるかどうか、米政府はようやく注目し始めたという訳です。本当かな?と声を上げる前に、リポートの根拠を探ってみましょう。

仮想通貨は商品やサービスの支払い手段としては広く利用されていない

米国議会調査局(Congressional Research Service=CRS)は、米国内で何世代も続いているドルキャッシュの利用が衰退しているかどうか、その代わりにビットコイン(BTC)などデジタル資産を商品やサービスの購入に利用する機会が増えるかどうか調べました。CRSは米議会図書館に1914年に設置された超党派の立法助言・補佐機関であり、議員の立法活動支援する情報提供や調査依頼に対応しています。

CRSは2019年5月10日に公表したリポートで、「米国内の決済に仮想通貨、ブロックチェーン技術、分散型台帳を利用することは、現金および(クレジットカード、デビットカード、モバイルアプリなど)伝統的システムとの比較で極めてまれである」と報告しています。一部デジタル通貨に対する市民の関心や需要は確かにありますが、「商品やサービスの支払い手段として広く利用されておらず、受け入れられもいない。それはむしろ投資の手段となっている」というのが調査結果です。

いくつかの州や都市は現金決済を拒否するストアやレストランを禁じる法律設定

現金を取り扱わない実店舗やレストランに反対する勢力は、これらの店舗が低所得者特にカードを所有しないマイノリティグループに対する差別であると主張します。連邦準備制度理事会(FRB)によると、現に、アフリカ系アメリカ人の14%、ヒスパニックの11%は銀行口座を持っていません。また成人の16%は、銀行口座を持っていませんし、過去に郵便為替や小切手の現金化、あるいはペイデイローン(給料払いの小口ローン)を利用したことがあるだけの貧困層です。

マサチューセッツ州やニュージャージー州、フィラデルフィア市は、現金決済を拒否するストアを禁止する法律を施行しました。サンフランシスコ監督委員会は5月初旬、同様の法案を採択しました。米国の金銭感覚は、ドル紙幣にこだわる保守的なそれです。

CRSは仮想通貨決済の影響力は認めてもその将来にコミットせず

米国は当初から、仮想通貨を決済の手段としてより投資の対象と位置づけてきました。このような考え方は、例えば代表的な仮想通貨であるビットコインなどで分かるように、価格変動が大きいことと関係します。CRSによると、このボラティリティが理由で、仮想通貨はマネーとして扱う能力に欠けていると判断しています。

CRSの報告書は、電子的な決済システムに取って代わる仮想通貨による決済の将来あるべき役割について、「推測の域を出ない」と位置付けています。決済業界の専門家筋は、近い将来に仮想通貨決済が中小規模のストアで広く受け入れられるとは思われず、「恐らく共存する」ことになると見ています。

米国は例えば日本や韓国と比較して見ても、仮想通貨の適切な規制について遅れを取っています。米国は商品やサービスの支払い手段として、仮想通貨に目を向ける時期に入ったのはほんの最近のことです。CRSは、仮想通貨とブロックチェーンは「現金支払いや伝統的な決済システムに大きな影響を与える可能性を秘めている」ことだけは認めています。

参考
Report to Congress ponders a future of cryptocurrency over cash

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