米連邦準備制度理事会(FRB)がデジタル通貨を発行するフィージビリティ・スタディを開始しています。ラエル・ブレイナード理事が2020年2月5日に発表しました。次いでパウエルFRB議長は2月11日、下院金融委員会でデジタル通貨発行を検討していることを公式に認めました。米政府は遂にというかようやく、中国のデジタル人民元の開発スピードに刺激されて、遅ればせながら実行可能性やリスクの検討に入ったというべきでしょうか、その背景を探ってみました。
ブレイナードFRB理事がデジタルドルの利便性とコスト削減を評価
ブレイナード理事は、スタンフォード大学経営大学院に招かれてデジタル米ドルについて発表しました。同理事よると、米ドルは世界で不可欠の重要な役割を果しており、そのためには中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)の政策策定と研究の最前線にとどまる必要にあります。FRBはそのため、特にCBDCの開発に欠かせない分散型台帳技術(DLT)の実験と研究を開始したわけです。
CBDCの発行計画については、中国が一歩も二歩も先行しており、19年末には「発行準備完了」とまで言われ、実地試験待ちの状況だと伝えられています。また日本、英国、EC諸国の欧州中央銀行(ECB)など先進主要国や最近のカンボジアを含む一部発展途上国も前向きの発言を繰り返してきました。CBDCの発行は、現行の世界貿易における米ドルの優位性を脅かすといわれています。
ブレイナード理事の表現によれば、デジタル化による決済手段の転換は、これまで以上の利便性とコスト削減を伴う価値を提供する可能性があります。CBDC開発プロジェクト開始の主たる要因となったのは、中国の動きとFacebookのステーブルコイン「リブラ(Libra)」発行計画にほかなりません。
プライバシー保護などに懸念材料多いリブラ(Libra)
ブレイナード理事は特にFaebookが発行するリブラ(Libra)について、世界人口の3分の1で利用されるだろうデジタル通貨がもたらすユーザー保護、データおよびプライバシー上の脅威について懸念を表明しています。同理事の表現によると、リブラは「特別の関心を払うべき緊急性」をもってデジタル通貨について話し合うべきプロジェクトであると位置付けられています。
ブレイナード理事によると、金融規制当局者が行うべき検討材料はいくつかあります。最も重要な課題は、CBDCが提供するコスト削減問題とともに立ちはだかるだろう運用上の脆弱性の問題です。さらに、デジタル通貨を扱うことができる銀行およびその他金融機関の分類や金融システムの変化によって起きるだろう一般的な不安定性リスクです。
CBDC発行をめぐり解決すべき3つの問題点
ブレイナード理事は、予測されるリスクについて、「デジタル化は低コストで大きな価値の提供と利便性をもたらす可能性がある反面さまざまなリスクがある。新しいプレーヤーの一部は、金融システムの規制上のガードレールの枠外にあり、新しい通貨は不法な金融、プライバシー、金融の安定、金融政策効果などの分野の難題を突き付けられている」と語っています。
パウエル議長は、デジタル通貨の発行をめぐって3つの問題点が残っていると語ります。同氏は、リブラの発行計画がCBDCを検討する予定を早めることになったことを認め、3つの問題点は「サイバー上の問題、プライバシー保護の問題、そして極めて多くの運用上の選択肢」を挙げています。
参考
・Federal Reserve Chairman: U.S. is “Working Hard” on Digital Currency
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