私たちの暮らしにやがて訪れると言われるモビリティ革命。前回の記事では、この革命がさまざまな経済分野へ波及していく可能性を持つと書きました。今回はより具体的に個別の分野を掘り下げていきます。

高レベルでのMaaSの実現を考えたとき、不可欠となるであろう技術が「自動運転」です。同技術は、私たちの移動だけでなく、デリバリーや物流への応用も期待されています。自動運転によって、暮らしはいったいどのように変化していくのでしょうか。

デリバリーと物流の今

まずは、デリバリーと物流の今を見ていきましょう。

デリバリーの分野では、配達代行サービスが台頭を見せます。
2016年9月、東京に初上陸したUber Eatsは、約3年で大幅に対象エリアを拡大。2019年8月現在、国内10の都府県で利用できるサービスとなりました。都内では23区のほか、近隣の市でも利用可能で、飲食店と消費者をつなぐインフラとなりつつあります。同サービスの成功を受けて、国内発のサービスも多数登場しており、今後さらに競争は活発になっていくでしょう。特定のプラットフォームが持つデリバリーネットワークを個々の飲食店が活用できる、シェアリングデリバリーのサービスも注目を集めます。将来的には、飲食店の料理を自宅で食べることが当たり前となるかもしれません。

一方、物流の分野では、人手不足が深刻化しており、サービスの縮小や値上げといったニュースをよく耳にするようになりました。
厚生労働省が発表する「労働経済動向調査(2019年5月)」によると、正社員等の労働者不足を感じる運輸・郵便業は60%に上り、同産業内の企業平均で約6%の欠員率を抱えています。人口が減少していく社会において、根本的な解決策を見出だせない状況が続いており、今後は、物流サービスのあり方、さらにはECと実店舗のあり方が問われていくでしょう。この点を解決しなければ、これまでと同じサービスの享受は担保されないと言っても過言ではないかもしれません。

デリバリーは、“食の物流”とも考えられます。現在進行形で拡大を続けるデリバリー市場ですが、今後、物流と同じ状況を辿るとすれば、やがて人手不足に陥るのは明白でしょう。

2019年10月から始まる消費増税では、外食が10%へ増税されるのに対し、デリバリーやテイクアウトといった中食は8%に増税が据え置かれます。軽減税率制度によってデリバリー市場が急拡大し、配達代行サービスへの需要が高まれば、まさに今都内でインフラとなりつつあるサービスが、予測より早く破綻を迎える可能性も拭いきれません。

そのような時代に、デリバリーや物流はどのようにして人手不足を乗り越えるのか。その命題に対する答えが「自動運転」にあります。

自動運転が導くデリバリーと物流の未来

実は、デリバリーや物流に自動運転を活用する動きが加速しています。

2018年11月、米スーパーマーケットチェーン大手ウォルマートは、食料品のデリバリーに自動運転車を導入する実証実験を始めました。

同実験は、米自動車メーカー大手フォード・モーターとの提携により実現したもので、フロリダ州マイアミの公道を自動運転車が走行し、デリバリーサービスの無人提供を目指します。同社によると、今後さらに対象エリアを拡大する可能性があるとのこと。デリバリーにおける自動運転の活用が現実となりつつあります。

また、物流の分野では、国内企業の取り組みが話題を集めます。
2017年4月、宅配便大手ヤマト運輸はDeNAと共同で、自動運転車による物流サービス「ロボネコヤマト」の実証実験を始めました。

同実験は、車内に保管ボックスを持つ専用のEV自動運転車を活用したもので、荷物を積む車両が接近すると、受取人のスマートフォンに音声通知が届く仕組みを持ちます。対象エリア内であれば、会社やカフェ、駅、公園といった幅広い配達場所を指定でき、配送時間も10分単位で選択が可能。新しい時代の物流サービスのあり方を示す、興味深い取り組みとなりました。

2018年4月、同実験は第2フェーズへと移行しており、完全自動運転(運転席に人が未着席)の配送へとステップアップしています。近い将来、物流においても自動運転が当たり前となっていくかもしれません。

自動運転については、私たちの移動に焦点が当たりがちですが、安全面や法整備など、まだ課題が山積みの状況です。技術として実用レベルを迎えても、すぐに移動手段のひとつとなり得るかは微妙と言わざるを得ません。
一方、デリバリーや物流といった、必ずしも人の同乗を必要としない分野では、比較的早く実用化の波が訪れるという見方もあります。私たちが最初に触れる「自動運転」は、これらのサービスとなる可能性が高そうです。

自動運転が社会課題を解決していく

デリバリーと物流は、今後成長が見込まれる市場です。過去、実店舗のみで行われてきた消費は、オンラインオーダーやECへと舞台を移し、食や小売のサービスをそれぞれの家庭で享受するケースも増えてきました。“BtoC化”の傾向を強める社会において、「配達」の需要はこれまで以上に増加していくでしょう。人手不足の解決が至上命題となりつつある「配達」の分野。自動運転の発達は、移動にとどまらず、さまざまな場面で私たちの暮らしを支えていくに違いありません。

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