はじめに

パブリックチェーンのイーサリアムは、世界中で使われているプラットフォームであり、様々なプロダクトが誕生しています。しかし、スケーリングやプライバシーの問題などからエンタープライズ向けとして利用するのは簡単ではありません。

このような課題を背景に、イーサリアムを拡張した「Quorum」や「Hyperledger Fabric」「Corda」など、ネットワークへのアクセス権を管理できるパーミッション型(許可型)のブロックチェーンが開発されています。これらは企業としてブロックチェーンの活用を検討する場合、選択肢に入るプラットフォームだと言えるでしょう。

そこで本記事では、企業でブロックチェーンの活用を検討している方に向けて、Quorumの概要とユースケースを紹介した上で、その特徴を解説していきます。

Quorumの概要とユースケースとは?

まずはQuorumの概要とユースケースを紹介します。

JPモルガンが開発、EEAへ譲渡されたオープンソースソフトウェア

Quorumは、イーサリアムのフォークチェーンであり、エンタープライズ向けの機能が追加されたパーミッション型(許可型)のブロックチェーンです。2016年に「JPモルガン」によってオープンソースソフトウェアとして開発された後、「The Enterprise Ethereum Alliance」(EEA)へ移譲されました。

The Enterprise Ethereum Alliance(EEA)とは?

EEAはエンタープライズ向けイーサリアムの標準化を目指し、2017年に組織された非営利団体です。2019年9月現在、JPモルガンやアクセンチュア、MicrosoftやIntelなど200以上の企業や団体が加盟しています。

Quorumに対応するMicrosoft Azure

Microsoftが提供している「Azure Blockchain Service」を使うことで、少ない工数でQuorumブロックチェーンを構築できます。

Azure Blockchain Serviceは、ブロックチェーンの構築やコンソーシアムのメンバー管理を容易にするだけでなく、既存のシステムやイーサリアムの周辺ツール(TruffeやMetaMaskなど)との連携も支援してくれるサービスです。

なお、Azure Blockchain Serviceについては、以下の記事でより詳しく解説しています。

Quorumのユースケース

Quorumの特徴を整理する前に、実際のユースケースをいくつか見てみましょう。

高級ブランドの真贋(しんがん)証明

「ルイ・ヴィトン」(LVMH)とブロックチェーン企業「Consensys」「Microsoft」は協力して、Quorumを活用した高級ブランド品の真贋証明プラットフォームを開発しています。OECD(経済協力開発機構)によると、偽造品と著作権侵害物による被害は増え続けており、その被害額は全世界の貿易額の3.3%(約5,090億ドル)にも及ぶとされています。

詳しくは以下の記事で解説しているので、興味のある方はぜひご覧ください。

銀行間情報ネットワーク

「INN」(Interbank Information Network)は、2017年にJPモルガンが立ち上げたQuorumベースの銀行間ネットワークです。グローバル決済のプロセスを効率化するためのソリューションであり、コンソーシアムに参加した銀行同士でのリアルタイムな情報交換を可能にします。日本からは三菱UFJ銀行やみずほ銀行、三井住友銀行などのメガバンクをはじめとして、多くの金融機関が参加しています。

参考:Largest Number of Banks to Join Live Application of Blockchain Technology

分散型のKYC基盤

「Kimlic」はQuorumベースのKYC(顧客の本人確認)基盤です。Kimlic上でKYCを一度でも行ったユーザーは、Kimlicと連携したサービスに対するKYCプロセスを繰り返さなくて済みます。

上記の他にも様々なユースケースが存在しており、主要なプロジェクトはQuorumの公式Webサイトで取り上げられています。

参考:Quorum

Quorumの特徴とは?

それでは、Quorumの特徴を解説していきましょう。

Quorumは、エンタープライズ向けのブロックチェーンに求められる高いスループット(単位時間当たりの処理能力)や、プライバシーなどの条件をクリアするために、主として以下の特徴を備えています。

  • プライバシーに配慮したトランザクション
  • パーミッション型のブロックチェーン
  • 高いスループットとファイナリティを担保するコンセンサスアルゴリズム

さらに、イーサリアムのフォークチェーンであるため、オープンソースであり、スマートコントラクトにも対応しています。

プライバシーに配慮したトランザクション

Quorum上のトランザクションは、すべてのコンソーシアムメンバーがアクセスできる「パブリックトランザクション」と、特定メンバーのみがアクセスできる「プライベートトランザクション」の2種類に分かれています。アクセスの範囲は必要に応じて調整可能で、トランザクションは「トランザクションマネージャー」によって制御されています。

以下はQuorumのアーキテクチャを図示したものです。

https://docs.goquorum.com/en/latest/

上記の「Quorum Node」はイーサリアムのクライアント「go-ethereum」(geth)に、必要最小限の変更を加えたソフトウェアです。「Enclave」はトランザクションマネージャーと通信して、データの暗号化・復号化を個別に管理します。

また、Quorumではプライバシーとセキュリティを両立するために、情報の中身を開示しなくても、正しい情報を知っていることを相手に伝える技術「ゼロ知識証明」を利用したプライバシー機能が提供されています。

パーミッション型のブロックチェーン

Quorumは承認された参加者のみがアクセスできるコンソーシアムチェーンです。先述のトランザクションマネージャーは、ネットワークの参加ノードを管理する機能も提供しています。

トランザクションマネージャーとしては、haskellで開発されている「Constellation」と、Javaで開発されている「Tessera」があります。

高いスループットとファイナリティを担保するコンセンサスアルゴリズム

Quorumは以下のコンセンサスアルゴリズムに対応しており、構築の際にはいずれかを選ぶ必要があります。

  • Raft-based Consensus
  • Istanbul BFT

「Raft-based Consensus」は、1秒あたり数百トランザクションを処理できるアルゴリズムですが、ビザンチン障害耐性がありません。これはQuorumが、承認されたノードのみが参加できる(信頼ベースの)クローズドなネットワークであるからです。参加ノードからリーダーが選出され、リーダーノードが作成したブロックを他のノードが同期する仕組みになっています。

一方で、「Istanbul BFT」はビザンチン障害耐性があるものの、Raft-based Consensusと比べて処理速度が遅いです。各ブロック毎に選出されたリーダーノードが作成したブロックを他のノードが検証し、過半数以上の承認が得られるとブロックが受け入れられます。

また、どのコンセンサスアルゴリズムもファイナリティがあります。

なお、Quorumの詳細は、以下の開発者向けドキュメントから読み始めるのがおすすめです。

参考:Quorum – Enterprise Ethereum Client

まとめ:Quorumは企業にとって有力な選択肢のひとつ

本記事で紹介したように、Quorumはイーサリアムの特徴を受け継ぎつつも、エンタープライズ向けにアレンジされたブロックチェーンです。EEAのような標準化団体が主導するオープンソースソフトウェアでもあるため、ブロックチェーンプロダクトの企画段階で選択肢のひとつになり得るでしょう。

当然ながら、エンタープライズ向けのブロックチェーンはQuorum以外にもHyperledgerプロジェクトやCordaなど、有力プロジェクトが存在するため、他のプラットフォームとの性能比較は不可欠です。検討の際には目的との整合性を踏まえつつ、課題ベースのアプローチで綿密に検討することをおすすめします。

おすすめの記事