「投資の神様」ウォーレン・バフェット氏が金鉱山株を購入していたことが判明し、ウォール街が色めき立ちました。同氏はこれまで、金に対してネガティブを見方を示していたからです。
金市場、神様降臨を歓迎 ビットコインに追い風か
バフェット氏率いる米バークシャー・ハザウェイが14日に米証券取引委員会(SEC)に提出した保有有価証券報告書で、カナダの金鉱山大手バリック・ゴールド株を新たに取得したことが分かりウォール街を驚かせました。金は株や債券などと違い、金利や配当を生まないことから、バフェット氏はこれまでに金投資には否定的な言葉を繰り返し述べていたからです。
同氏の投資戦略の中核と考えられているのが配当の再投資による複利効果であり、経営基盤が比較的安定し、長期的に配当を生み出せるビジネスモデルに好んで投資していると考えられてきました。
報告書によると、バークシャーは6月末時点でバリック株を2091万株、金額にして5億6,355万ドル(執筆時の為替レートで約600億円)を保有しています。3月末時点ではゼロだったので、すべてが4~6月期に購入されたようです。バリックは配当を支払っていますが、足元での配当利回りは1%程度で、米大手企業の平均的な配当利回り2%弱と比べて高いわけではありません。
バフェット氏が金市場に参入した背景として、拡張的な財政政策や金融緩和によるドルの信認低下、新型コロナウイルス流行を受けた安全資産への逃避、将来的なインフレリスクに対するヘッジ、などが挙げられています。金価格の上昇に歩調を合わせてデジタル・ゴールドとも呼ばれているビットコインも上昇しています。世界的には新型コロナの感染拡大が続いており、収束には時間が必要となりそうなことから、金やビットコインは上昇基調を継続する可能性が高いとみられています。
ドル安小休止でビットコインも上昇一服?
ただ、ウォール街の一部には金やビットコインの上昇維持に懐疑的な見方もあります。金価格の上昇はおおむねドルの下落と歩調を合わせていますが、ドル安の背景にある実質ドル金利が下げ止まりつつあるからです。
米連邦準備制度理事会(FRB)は3月に政策金利をほぼゼロに引き下げ、現在までその水準を維持しています。これを受けて、米10年債利回りは3月に0.5%台に低下し、以降は0.6%前後で推移しています。一方、実質金利の指標とされる物価連動10年債の利回りは、3月に一時0.5%台まで上昇後、おおむね右肩下がりとなり、足元ではマイナス1.0%近辺で推移しています。
この間、インフレ期待は3月の0.5%から8月は1.6%台に上昇し、おおむね2月の水準に顔を合わせました。これはインフレ期待はコロナ流行前の水準に戻ったことを意味します。8月に入って実質金利が下げ止まりとなると、ドルの下落も止まっています。一方、金やビットコインも8月は上昇一服となり、バフェット氏の参入で一時上昇した金価格も足元では上昇前の水準に戻っています。
インフレ期待がコロナ前の水準に戻り、その水準で落ち着いていることは、少なくとも現時点では将来的なインフレが懸念されていないことを示唆しています。また、10年債利回りが低水準で安定していることは、ドルへの信認が揺らいでいないことの証左と言えそうです。さらに、代表的な株価指数であるS&P500指数やハイテク株の多いナスダック指数がコロナ前に付けた過去最高値を更新していますので、安全資産に逃避している様子もうかがえません。
こうした状況を踏まえると、金やビットコインの上昇を、ドルへの信認低下、安全資産への逃避、インフレヘッジで説明するのは難しく、金利低下によるドル安の裏返しと考えるのが妥当なようです。一般に金利が下がると当該通貨は下落しますが、必ずしも信認が低下しているわけではありません。また、ドルの下落はドル建て資産価格の支援材料となります。
Withコロナで金融相場継続ならビットコイン一段高も
とはいえ、ドルが一段安となる可能性は残されています。3月以降のドル安は拡張的な財政政策と金融緩和を背景としており、それが再現される公算があるからです。足元でのドル安小休止には、追加の景気刺激策を巡って米議会が行き詰まっていることも影響しているようです。
しかし、米国でのコロナ感染者数は高止まりしており、経済活動の再開が足踏みもしくは後退している州もあります。景気の先行きに不安を抱えていることから、9月以降、何らかの形で追加対策が打たれる可能性が高く、状況によってはFRBからの支援もあるかもしれません。
従って、ドルへの信認が低下せず、安全資産も求められず、インフレヘッジの必要もないとしても、ドル安が起きる可能性があり、その場合には金と共にビットコインも再浮上することが見込まれます。
ただ、コロナ第2波が世界的に急拡大した場合には注意が必要です。金もビットコインもコロナ危機が深刻化した3月に共に急落しているからです。これは、市場では金やビットコインは安全資産ではなく、リスク資産とみなされていることを示唆しています。その一方で、3月はドルが急上昇しており、「有事のドル」が健在であることをうかがわせています。
景気が悪いにもかかわず、金融緩和で実質金利がマイナスになり、リスク資産が上昇する局面を捉えて「金融相場」と呼ばれることがありますが、現在がまさにその状態にあります。結局のところ、ビットコインの行方は金融相場の持続性にかかっていると言えるのかもしれません。
参考
・Bitcoin Is Riding High Again as Investors Embrace Risk
・Warren Buffett’s Berkshire Hathaway Joins the Gold Rush
・Gold Will Need More Bad News to Keep Prospering
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