ブロックチェーン開発者界隈でも話題となっている「ラディカル・マーケット(Radical Markets)」。著者のグレン・ウェイル(Glen Weyl)氏が5月、カナダのトロントで開始されたイーサリアムのイベント「EDCON」に登壇し語った内容を紹介します。

この場を設けてくれたヴィタリック氏に感謝する。私はこのコミュニティの一員ではないし、イーサリアム(Ethereum)についてほとんど何も知らないが、彼が私を招待した理由は、裁量を持った中央集権的な権威に頼ることなく、より公正で平等な社会を実現することに多くの人が関心を抱いているからだと考える。

ここ数日間で、開発中の技術について驚くべきことをいくつか耳にした。技術的なインフラがどのようなものになるかはまだ分からないが、そのような社会が実際にどのようなものになるのかは語ってもいいだろう。10分間では私が出版した書籍「Radical Markets」で述べられているすべての政策やアイディアの詳細について語ることはできないが、私たちが想像している将来のビジョンについて概要を説明する。

少しの間、現実的に考えるのをやめて、私がマーケトピアと呼ぶ架空の都市への旅に付き合ってほしい。

マーケトピアとは

マーケトピアとは、あらゆる資産の所有が入札によって決定される理想的なマーケットだ。すべての私有財産は常にオークションにかけられ、入札額の最も高い人がその資産を所有する。より高額な入札が行われ所有権が引き継がれるまでの間、資産の所有者は共有プールに対してレンタル料を支払い続ける。

これは私有財産だけでなく、公園やバス、学校のような、行政が管理する共有財産に対しても適用される。共有財産の場合、最高額の入札者に販売されるのではなく、さまざまな選択肢の中で人々が支払いたいと考えている金額の合計が最も大きなものが選択される。マーケトピアでは、このようなオークションで調達されたすべての資金は、社会的な配当あるいはユニバーサル・ベーシック・インカムのようなものとして共同体に属する人々に返還される。

マーケトピアは共有財産制の自由市場

マーケトピアに対する最初の反応は、「想像し得る限り最も極端なバージョンの自由市場」というものだ。今の社会では、例えばビルを購入したい場合、お金を払うだけでは駄目だ。現在の所有者と交渉しなくてはならず、金額を吊り上げられてしまうこともあるだろう。私たちは自由市場の社会に住んでいるが、実際は企業や組織によって独占されており、競争的な割り当ては実現されていない。

極端な自由市場では、裕福な人が他の誰よりも高額な入札を行うことですべての資産をコントロールしてしまうと考えるかもしれない。しかし、「裕福」の意味が、会社や土地、建物などのさまざまな資産を所有していることだとすると、マーケトピアではすべての資産が人々によって共有されており、その資産から来る利益はすべての人に平等に流れていく。

すべての人は資産をコントロールする入札について平等な権利を持っている。事実、マーケトピアはカール・マルクス(Karl Marx)のような人々が支持した共有財産をはるかにもっと極端にしたものだ。

過去世界に存在した社会主義は、それがどのような形のものであっても官僚主義に変性し、一部のエリート官僚が残りの人々を資本主義者よりも酷く独裁した。逆説的なことに、徹底した共同所有制に基づく最も極端な社会主義が、最も極端な自由市場のように富を偏らせた。事実、冷戦前の時期には、政治経済学の分野で「Competitive of Common Ownership(競争的な共同所有)」と呼ばれる学派が生まれ、支配的になっていた。

この考えは、本当の自由市場を持つためには土地の個人所有はできないというものだ。作家のヘンリー・ジョージ(Henry George)もこの学派と関連があった。アメリカの進歩主義運動の名前は彼の著作から取られたものだ。孫文による革命にも影響を与えた。しかし、彼の考えは冷戦後の資本主義と共産主義との葛藤の中で忘れられてしまった。

私の本のゴールは、大衆からは忘れられていたとしても、これらの考え方が制度設計の学問分野では続けられてきたことを示すことだ。Googleの検索結果オークションは実際に社会全体を変革するために使用されている。

マーケトピアの5つのアイディア

この一般的な枠組みに基づいて、世界を変えるような5つのアイディアを紹介する。

1つ目は「Common Ownership Self-Assessed Tax(共同所有自己査定税)」だ。財産の所有者は自身でその価値を査定し、およそ7%の税金を支払う。この資産は自己査定額で購入したいと考える誰に対しても販売される準備ができていなくてはならない。この購入金は社会的配当として返還される。

2つ目は、「Quadratic Voting(二乗の投票)」だ。各市民には「ボイスクレジット」と呼ばれる予算が平等に配分され、それを使ってさまざまな課題に投票する。より多くの票を集めたアイディアが採用される。この仕組みにより、投票者にとって最も重要な課題が何かを表明することができる。同じアイディアに複数票を投じるために必要なクレジットは、1票なら1、2票なら4、3票なら9というふうに二乗で増加する。

3つ目は、「Visas Between Individuals Program(個人間のビザプログラム)」だ。この仕組みは、移民による利益を、移民を雇用する大企業ではなく、移民を受け入れる裕福な国の一般労働者に集めることで政治的なインセンティブを産み、移民を劇的に増加させる。

4つ目は、「Dismembering the Octopus(タコの手足を切り離す)」だ。今日の市場の力の源は、アンチ・トラスト法によって規制することができていない。アンチトラスト法では、労働者からより多くの力を得ようとする企業を規制し、合併を防ぐことはできない。また、企業経済のほとんど三分の一をコントロールする巨大な投資機関を規制することもできていない。

5番目は、「Data as Labor(労働としてのデータ)」だ。毎日私たちがFacebookやGoogleのようなサービスに提供しているデータが機械学習の基盤となっている。そして、そのような機械学習システムが、私たちから仕事を奪うと言われている。私たちが提供するデータを労働として扱うことができれば、デジタルエコノミーはすべての人々にとって失業の脅威ではなく機会の源となる。

最後に

これらのアイディアは急進的かもしれないが、イーサリアムのコミュニティが急進的なアイディアに対してオープンであることに私は興奮している。また、イーサリアムは、これらのアイディアが上手く機能し、多くの人に受け入れられ、私たちの社会に変革をもたらすことができるかどうかを段階的に実験することのできる素晴らしい場だとも考えている。

不平等が拡大し、経済が停滞し、政治システムに対する信頼が失われている今の時代には、このようなアイディアが切実に必要とされていると私は考える。

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