アメリカの暗号通貨企業のサークル(Circle)が低迷している様を見せています。共同創業者の辞任や従業員の解雇などが続いています。Circleは、暗号通貨コングロマリット企業といえる企業です。
世界にオフィスを構える暗号通貨企業サークル(Circle)
Circleは、リテール個人向けの取引所運営から大口向けのOTC取引、ステーブルコインまたセキュリティトークンを見据えた投資型クラウドファウンディングプラットフォームの運営まで手掛けます。
同社は2013年にジェレミー・アレール(Jeremy Allaire)氏とショーン・ネヴィル(Sean Neville)氏によって創業されました。創業当時は、米国内やグローバルで決済できるP2Pペイメントアプリを運営していましたが、現在は暗号通貨関連のサービス全般にシフトしています。
2015年9月には、ニューヨーク州における暗号通貨事業者のライセンスであるビットライセンス(Bit License)を取得、交付の一号企業がCircleでした。当時はビットコイン(BTC)の購入もできるウォレット運営を皮切りにOTC事業などを拡大させていきます。米国拠点はマサチューセッツ州ボストンで、オフィスは世界8拠点に広がります。アイルランドのダブリンが本社であるとしています。これは税制の都合でしょう。
同社の投資家にはゴールドマン・サックスなどの金融機関、さらに中国系の投資家も幅広く資本参画していることが特徴です。
共同創業者の辞任と相次いだ解雇
そんなCircleは2019年12月に10名の従業員を解雇したことを発表しました。共同創業者の一人であるネヴィル氏が共同CEOから辞任をするアナウンスに続いた形です。同社は同年5月にも従業員30名の解雇を発表しています。また、傘下の取引所であるポロ二エックス(Poloniex)を売却や「Circle Research」といったメディア事業の終了など事業縮小が相次いでいます。
Circleはユニコーンまで駆け上がった暗号通貨企業の一つではあったものの、典型的な没落をしているように見えます。同社の直近投資ラウンドでの企業評価額は10億ドル(約1,100億円)を超えています。しかし同社の最後の資金調達は暗号通貨市場がバブルの時であり、その後、二次流通市場で同社の株式は大幅にディスカウントされて取引されていることも指摘されています。そういった点で、2019年末現時点で投資家が同社をどのように評価するかは直近ラウンドのみからでは評価しづらい点もあるでしょう。
スタートアップらしい戦い方と規制遵守のバランス
筆者の所感としては、同社の経営陣の発言からは、2018年頃から規制に対する文句が続いたのが印象的です。CircleのCEOによるブログでは、現在のアメリカの暗号通貨の規制は厳しすぎで、証券ではなくクリプトのための別のセクターを新設し規制を整備すべきであるという主張などが綴られています。
このような発言のあと、傘下の取引所は米国から撤退しその後売却に至っています。同社の動きに対する筆者の印象は、規制という条件は他の会社も同じで、その中で粛々と手を動かした競合各社と差がついたことは然るべき結果であると感じます。新技術であり加えて極めてセンシティブな産業に直結する暗号通貨、ブロックチェーン業界に身を置く人にとって、規制に文句言いたい場面なんて当たり前にあります。
Circleの一連の流れは、文句言っているだけでは事業者としては不合格であるということを認識できる例のように思います。とはいえ、同社も前述にようにニューヨーク州における暗号通貨事業者のライセンスであるビットライセンスを最初に取得した事業者で、これまで努力していた事実ももあります。この業界のスタートアップにとって、スタートアップらしい戦い方と規制遵守のバランスは極めて難しく、同社の低迷はそれを物語っています。
参考
・US crypto policy needs to change
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