これまで、ブロックチェーン上のプライバシーは長らく議論されてきた大きな課題となってきています。現在イーサリアム(Ethereum)周りでは、匿名技術の提案が非常に活発となっています。
議論が活発になる匿名技術
ビットコイン(Bitcoin)やイーサリアム(Ethereum)をはじめとするパブリックブロックチェーン上では、全てのトランザクションとそのトランザクションに紐づくアドレスが公開されています。
アドレスからは個人情報を確認することができませんが、一度アドレスと個人情報を紐づけた情報をなにかしらの形で入手することができれば、そのトランザクションを追跡して、その個人がどのような取引をしているか、どのようなアセットを持っているかを第三者から確認できてしまうという問題があります。
以前からも匿名技術は数多く提案されてきましたが、2018-19年になってさらに活発になっている理由は、暗号通貨が一般的になったことによる規制当局からの追跡、ブロックチェーン分析ツールの増加、従来のユースケース以上にプライバシーが必要になるセキュリティ・トークン(Security Token)の登場など、複合的な要素が大きいのではないかと考えられます。
最近、数多く提案される匿名技術の中でも個人的に特に興味深かったものは「Zether」です。
イーサリアム(Ethereum)上で秘匿アセットを構築する仕様のZether
イーサリアム(Ethereum)上で秘匿アセットを構築する仕様である「Zether」の論文が公開されました。このアセットは、パブリックブロックチェーンにありながら、どんなトランザクション手法でも匿名性を持つというものです。アメリカのスタンフォード大学とVISAのリサーチャーが共著した論文です。(論文のオリジナルのリンクはこちらです)
Zetherとは新しいアセット形式の提案ではなく、プロトコルのような提案です。Zetherという名前がイーサリアム(Ethereum)のためだけの提案だと勘違いを誘発しますが、これはイーサリアムだけではなく他のパブリックブロックチェーンのステラ(Stellar)やイオス(EOS)などでも汎用性があるものだとしています。
技術としてはゼロ知識証明を応用し、「Σ-Bullets」という新しい手法を用いています。
もし、Zetherをイーサリアムで使用する場合、ETHや任意のERC20トークンを専用のスマートコントラクトのアドレスにデポジットします。そこにETHがロックアップされると、ZETHが生成されます。
このZETHのトランザクションは、常にブロックチェーン上で秘匿化されます。ZETHをそのコントラクトアドレスに戻してアンロックをすると、ETHが返却され常にペグされます。
Zetherによって生み出されるメリットや、応用可能なアプリケーションとして、下記のようなものが言及されています。
- イーサリアムなどのパブリックブロックチェーン上で匿名通貨の構築
- 入札している人が誰かを秘匿しながらオークションを開催するアプリケーション
- アドレスを秘匿しながらステーキングに参加する
Zetherは、Gas fee(ガス手数料)を大きく消費するだろうということが予想されていて、イーサリアムで、Zetherを実装した場合のシミュレーションも論文内でされています。
出典:https://crypto.stanford.edu/~buenz/papers/zether.pdf
現在、Zetherはまだアカデミックな論文が発表された段階で、実装コードは書かれていません。ですが、こういった論文をもとに第三者のプロジェクトや企業などが、プロダクト開発をしていきます。
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