分散型音楽ストリーミングプロトコルAudiusがSolana(ソラナ)ブロックチェーンへの移行を表明しました。予定では2021年内を目標に現在のPoAネットワークからソラナブロックチェーンへと移行する計画です。
Audiusトークンとは?
Audiusは2020年10月にイーサリアムメインネット上にプラットフォームトークンであるAudiusトークン($AUDIO)の発行を開始しています。Audiusトークンはプラットフォームのセキュリティ、機能アクセス、ガバナンスに関与するトークンとして設計されており、これらの機能はソラナ移行後もしばらくはイーサリアム上で機能する予定です。
エンターテイメント領域のWeb3アプリケーションがイーサリアムから、他のパブリックチェーンへと移行を表明するという事例は今回のケースだけではありません。これらに共通して言えることはWeb3アプリケーションに固有のスケーリングの課題があり、そのための対処としてイーサリアム以外のパブリックブロックチェーンの探索が行われているということです。
ソラナブロックチェーンの基礎的な情報はこちらの「Solanaとは?秒間5万トランザクションを処理できるブロックチェーン」で紹介しています。
なぜAudiusはソラナへ移行するのか
Audiusはなぜイーサリアムからソラナブロックチェーンへ移行するのかという問いは、エンターテイメント領域のWeb3アプリケーションはなぜイーサリアムから他のパブリックブロックチェーンへ移行するのかという問いと共通する答えを持っています。
今回のAudiusの事例と類似したものとして世界初のブロックチェーンゲーム「クリプトキティ」を開発したダッパーラボ(Dapper Labs)社の動向を挙げることができます。Dapper Labs社は過去3年以上にわたり、イーサリアム上でWeb3アプリケーションを開発してきました。しかし、イーサリアム上のトランザクション性能をはじめとする課題に直面したことを機に、ゲームやデジタルアートといったエンターテイメント領域に特化した独自のパブリックチェーン「Flow」を公開し、これまで手掛けてきたアプリケーションをFlow上に移行させる計画を立てています。
出典:etherscan
コンシューマー向けのアプリケーションにとって、現在のイーサリアムのトランザクションコストの高さとスケーラビリティの課題は、ユーザー体験を向上させ、より多くのユーザーにWeb3アプリケーションに触れてもらう上での大きな障害と考えられています。
上図表はイーサリアムネットワークのこれまでのガス価格の推移を示したものですが、2018年あたりから平均的にガス価格は10〜20Gweiを推移していたものが2020年春以降40Gwei以上が慢性化し、DeFi(分散型金融)アプリケーションが流行した夏あたりには100〜200Gweiと2018年以降の平均と比較すると10倍近く高騰していました。
この時期の1トランザクションにかかるガス代(ガスリミット×ガス価格で算出)は数千円になることもあり、一回の取引で取り扱う金額が高額でなければ到底納得できる手数料価格ではありません。ブロックチェーンゲームで取引される数千〜数万円の資産を移動、交換、売買するためにこれらの手数料を支払わなければならなかった状況を考えるとイーサリアムのガス代やスケーラビリティの課題がいかに悩ましいものであるのか容易に想像がつくでしょう。
Audiusはより速く、低コストな基盤を目指して
Audiusがソラナブロックチェーンを選択した理由はこれとおおよそ同じ理由です。Audiusは2019年初頭にプライベートアルファ版をリリースし、その後同年8月にテストネット、同年9月には分散型パブリックベータを開始し、現在では月間80万アクティブユーザーと着実にその経済圏を成長させています。
より速く、低コストな基盤を必要とすることは成長を続けるAudiusコミュニティの将来の需要を満たす上でも重要です。Audiusは分散型ソリューションでコンテンツクリエイターとファンを直接結びつけ、新たなコミュニケーションを実現するという利点を提供していますが、既存Web2の音楽ストリーミングプラットフォームに匹敵するユーザー体験を提供できなければ、多くのユーザーを経済圏に呼び込むことは難しいでしょう。
今回Audiusがソラナをその移行先として選択するにあたって、事前に20を超えるL1およびL2スケーリングソリューションを用いた実証実験を行い、今後のAudiusネットワークが必要とする能力を満たす基盤の特定を行ったとしています。Audiusはこれらの調査結果を元に、今後のAudiusネットワーク拡張をサポートするために、高性能L1ブロックチェーンであるソラナを選択したとしています。
Audiusがソラナを選択した理由
今回Audiusがソラナを選択した理由を4つ挙げています。
①トランザクションコストの安さ
ソラナはおよそ100万件のトランザクションを10ドル(約1,050円)で処理することができます。※AudiusはWeb2ライクなログイン方法とメタトランザクションを可能にする独自開発のイーサリアムウォレットHedgehogを採用しています。つまり、ガスコストをユーザーに代わってアプリ側が負担することも可能です。今後独自のソラナウォレットを作成するのかは不明ですが、このことからもAudiusにとってガスコストの安さは重要です。
②高速性
ソラナのブロックタイムはおよそ400ミリ秒、確認は1秒未満で行われることも多くあります
③ライブ
ソラナのメインネットは稼働開始からおよそ8ヶ月が経過しており、約50億トランザクションを処理しています。これまでに大きな障害も発生しておらず、安定して稼働しています
④分散性
ソラナのメインネットには執筆時点で187のノードがあり、テストネットには500以上のノードがあります。他のパブリックブロックチェーンと比較しても十分に分散化されていると言えます。
出典:SOLANA BEACH
以上4つのソラナの魅力はコミュニティ主導の分散型音楽ストリーミングサービスを実現しようとするAudiusの今後の成長を支えるのに十分なパブリックブロックチェーンであると考えられます。Audiusのソラナ移行は以下の3つの段階を経て2021年半ばを目処に開始される予定です。
- 第一段階:2020年末までにAudiusリッスントラッキングを移行
- 第二段階:2021年第1四半期にAudiusコンテンツレジャーの書き換え、および監査
- 第三段階:2021年第2四半期に完全移行を予定
Audiusの詳細は同プロジェクトのホワイトペーパー、ブログ、各SNSを参照ください。Audiusプロトコルを用いた音楽ストリーミングサービスはガバナンス等の一部機能は今後の開発によりますが、トラックの再生などの基本機能は利用可能です。
参考
・Audius Selects Solana to scale community-owned music streaming
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