ブロックチェーンはどの分野に最も活用?スタンフォード大学が有用性をレポートに

スタンフォード大学経営大学院は9月、ブロックチェーンに関する社会的有用性まとめたレポートを発表した。ブロックチェーンの技術は日々進歩しているものの、仮想通貨を投資対象として捉える傾向は未だ強い。そのため、ブロックチェーンは仮想通貨を支えるインフラであるというイメージを持つようだ。

今回は、具体的にブロックチェーンがどのように社会に貢献していくのか。実際に3つの分野に焦点を当てて紹介したい。

エネルギー業界における有用性

エネルギー業界はブロックチェーン技術によって大きな変革を起こすことが予想される。分散型取引プラットフォームの確立により、エネルギーの最適化とマイクログリッドの普及、個人間や企業間のP2P取引などが可能となる。具体例としては以下の通りだ。

  • 個人間での電力直接取引
  • 契約締結がスムーズになり、契約情報に基づいた業務の自動化
  • トレーサビリティ可能になることによる環境価値の証明

世界では欧米の企業を中心としたRE100や国際的なエネルギーイニシアチブに加盟している国を中心に、再生可能エネルギーの導入が進んでいる。多くの先進国ではスマートメーターなどの機器の効率化から各家庭や企業ごとの電力使用データを集めるところからマイクログリットの形成に繋げていく動きが多いようだ。

この分野における16の組織へのインタビュー調査では、10の組織がプラットフォームやマーケットプレイスにブロックチェーンを応用しているとの回答があった。例えば、ブロックチェーンを用いたエネルギーリワードプラットフォームのオメガ・グリッド(Omega Grid)は、ユーザーがクリーンエネルギーを使用することでリワードがもらえるシステムを開発している。

金融事業における有用性

現在世界中には17億人以上の銀行口座を持たない人々が存在しているため、金融事業のサービス拡大は非常に大きい。

金融業界における世界的な問題として、まず高額な取引手数料により、貧困層が利用するには不利な状況であることが挙げられる。そして、身元の証明手段がないために金融サービスを受けることが困難になる場合がある。スタンフォード大学のレポートでは、39%の組織が決済や送金にブロックチェーンを活用しており、その多くが特に国境を越えた取引の際のコストの削減になったことを報告している。

送金や決済におけるブロックチェーンの活用事例として、ウガンダや南アフリカなどでサービスを提供するフィンテック企業のワラ(Wala)がある。同社は決済システムや銀行のような口座機能を持つモバイル向けプラットフォームを提供している。同プラットフォームは銀行口座を持たない人々をターゲットにしており、ブロックチェーンを活用し、安全な資産管理を実現しているという。

このような金融包摂への取り組みは活発になりつつあるが、規制が明確になっていないといった問題も抱えている。

ヘルスケア事業における有用性

ヘルスケア分野におけるブロックチェーン活用事例の多くは健康管理やデータ管理が挙げられる。

医療情報の多くは施設ごとに分断されており、情報は共有されていない状態である。つまり、医師が患者の情報を取得したい場合であっても他の病院の記録を照会できないため、その病院内での記録を頼りに治療を進めていくしかないのである。ブロックチェーンは他の施設で管理されている情報を相互運用することに活用される。

米国では医療系の電子システムは全て、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(HIPPA)の基準に準拠する必要がある。情報のプライバシー管理が徹底されているため、患者が自身の医療データを保有しておらず、病院でのみ基準に則って管理されているのが現状だ。ブロックチェーンによって、今後は施設や患者の間で情報を共有する動きにシフトしていくのではないだろうか。

また同レポートでは、ヘルスケア分野では上記のように個人情報を管理しているためサイバー攻撃に対する脆弱性を指摘している。ヘルスケア事業者はデータの喪失もしくは盗難にあった際に、1つの記録に対して408ドル(約約4万4,000円)の被害があり、これは通常のデータの平均の3倍に相当するという。そのためデータの盗難を防ぐためにブロックチェーンの活用が進んでいる。

最も利用されたのはイーサリアム

調査された110の組織のうち、47.3%がブロックチェーンを記録と検証に利用し、26.4%がプラットフォームやマーケットプレイスの構築、13.6%が決済や送金などのために活用していた。またブロックチェーンのタイプについては、40.9%がイーサリアム(Ethereum)を使い、10%がハイパーレジャー(Hyperledger)を使用していた。

各分野の企業は、ブロックチェーンの採用に各国での規制が追い付いていないという反応を残している。また、発展途上国にブロックチェーンを用いたインフラを構築することにもリスクと多大なコストが伴う。未だ懸念材料はあるものの、ブロックチェーンの有用性が示されていく中で、更なるソリューションが生まれてくることに期待したい。

参考
Stanford Report Highlights Blockchain’s Potential for Social Impact
2019 Blockchain for Social Impact

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