北朝鮮が仮想通貨悪用の可能性、経済制裁回避が狙い

英国王立防衛安全保障研究所(RUSI=Royal United Services Institute for Defence and Security Studies)がこのほど、暗号通貨をめぐる北朝鮮の最近の活動をまとめた報告書を公表しました。RUSIは報告書の中で、北朝鮮が国際的な経済制裁を回避するため、特に東南アジアで暗号通貨をさまざまな形で悪用する可能性を警告しています。

英防衛安全保障研究所が北朝鮮からの大量破壊兵器拡散の脅威指摘

報告書は「Closing the Crypto Gap: Guidance for Countering North Korean Cryptocurrency Activity in Southeast Asia(暗号通貨のギャップを縮めるために:東南アジアにおける北朝鮮の暗号通貨活動に反撃するためのガイドライン)」(2019年4月12日)との表題による長文の文書です。

報告書は「北朝鮮は資金を調達、国際的な(経済)制裁を回避するため、過激な政策を遂行し、ビットコインはじめ仮想通貨を奪取する努力を強化している」との書き出しで始まっています。北朝鮮は最近まで米国との外交交渉を重ねてきたにもかかわらず、大量破壊兵器(WMD)拡散の最も大きな脅威になっていると分析されています。

資金調達、備蓄、迂回の3つの手段で暗号通貨を利用

国連安全保障理事会の北朝鮮専門家パネルは「暗号通貨は追跡し難く、政府の規制にかかわりなく資金洗浄できるならば、暗号通貨は北朝鮮に経済制裁を回避する多くの策を提供することになる」との見解を示しています。

報告書は、北朝鮮が暗号通貨を資金調達の一環として位置づけ、「資金調達」目的にとどまらず、法定通貨といつでも交換できる「備蓄」、国際的に制裁を受けている食料入手などの決済手段という「迂回」の3つの手段を通じて、暗号通貨を利用しようとしていると述べています。

北朝鮮サイバー犯罪グループのラザルスはハッキングの半数に関与

サイバーセキュリティ企業のカスペルスキーラボ(Kaspersky Lab)のリポート(2019年3月26日)によると、ラザルスグループ(Lazarus Group)と呼ばれる北朝鮮のサイバー犯罪グループが2017年以来すべての仮想通貨ハッキングの半分以上に関与していることが分かりました。

またサイバー犯罪動向のGroup-IB年次報告書によると、18年に発生し取引所への14件のハッキングの内、5件がラザルスによる事件でした。国連安保理は3月、年次報告書の中で、経済制裁を回避する目的で北朝鮮が、アジアの取引所から推定5億7,100万ドル(約627億円)をハッキングした可能性があると述べています。

北朝鮮に狙われやすい東南アジアの規制上の弱点克服が課題

東南アジアは長年、北朝鮮による大量破壊兵器の拡散関連の資金調達や制裁逃れの活動の影響を最も受けやすい地域です。東南アジアはまた、規制面で国によるギャップが存在し、北朝鮮による暗号通貨絡みの活動の影響を受けやすくなっています。

このようなギャップによって、北朝鮮は仮想通貨取引所やその他関連プラットフォームを不当に利用することができます。東南アジアの規制当局は、暗号通貨関連の犯罪活動に対応し、暗号通貨業界が大きく成長するために必要な知識とリソースが不足しています。

RUSIの報告書は結論として、東南アジア諸国が取るべき対抗措置を以下のように挙げています。第1に「国内のリスクと脆弱性」の評価、第2にAML(資金洗浄)などのリスクを抑止する規制上の対応、第3に各機関の協力、第4に地域間調整による対応、第5に法的な措置の強化、第6に民間部門の教育と注意喚起、そして最後に官民協力による対抗措置です。

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参考
Royal United Services Institute for Defence and Security Studies
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