
暗号資産(仮想通貨)に理解を示してきた米商品先物取引委員会(CFTC)のクリストファー・ジャンカルロ(Christopher Giancarlo)委員長が2019年7月15日に退任するのに対して、6月5日に米下院で承認された後任者ヒース・タルバート(Heath Tarbert)氏がどんな見解を持っているのかにわかに注目を浴びています。同氏は財務相のトップ官僚であり、国際問題に深い経験を持っています。
前任者ジャンカルロ氏と同様に仮想通貨に理解示すとの期待
ジャンカルロ氏はビットコイン(BTC)支持者として、「Crypto Dad(クリプトパパ)」の愛称で親しまれてきました。仮想通貨支持者は同氏の手腕に期待してきましたので、退任の報に驚き、後任がどのような政策の持ち主か強い関心を抱いています。同氏は6月5日の引退声明で、タルバート氏を「大変有能な人材」と表現して、熱烈な祝辞を送りました。
タルバート氏が、仮想通貨にどのような考え方を持っているのか余り知られていません。しかし、ジャンカルロ氏によると、タルバート氏はCFTCを「今日のデジタル市場における21世紀を代表する規制当局」にするという見解を共有しているそうです。トランプ大統領の指名を受けた共和党員のタルバート氏は、企業優先の考え方を持っていると言われ、イノベーションを抑えるような過激な規制に反対の立場ではないかと期待されています。
タルバート氏は、19年に米財務省の国際問題担当次官代理に就任しました。世界経済を監視する国際機関である金融安定理事会(FSB)のメンバーでもあります。FSBは18年10月10日に公表した報告書の中で、仮想通貨は現時点で世界の金融安定化の脅威になってはいないが、監視の必要はあるとの見解を示しています。
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タルバート氏は金融安定理事会(FSB)メンバーとして活躍
FSBは世界各国の中央銀行総裁らで構成されており、国際決済銀行(BIS)の支援を受けています。18年10月の報告書は、18年3月にFSBチェアがG20財務相・中央銀行総裁会議に送った当初の金融安定評価文書のフォローアップ文書とされています。
暗号資産は世界の金融の重大なリスク要因ではないとする報告書の結論は、以下のように述べています。
「入手可能な情報に基づくと、暗号資産(仮想通貨)は現時点で、世界の金融安定に対する重大な危機をもたらしてはいない。しかし、この市場の発展のスピードに照らして、怠りない監視が必要である。暗号資産の利用がますます盛んになるとすれば、将来の金融の安定に何らかの関わりを持つ可能性がある」
報告書によると、そのようなリスクとは、金融機関とその規制当局の信頼に対する影響と風評被害、金融機関への直接もしくは間接的エクスポージャーに由来するリスク、暗号資産が広く支払い・決済に利用されるようになった際に生じるリスクなどです。
仮想通貨の問題はSECからCFTCに移る可能性
タルバート氏は弁護士出身の財務省次官代理として、金融の安定と規制問題に関する国際機関での米国の利害を代表しており、貿易協定の交渉や米国企業活動の標準化に関わっていました。タルバート氏は財務省に入所する前は、国際的なアレン&オーヴェリー法律事務所のパートナーでした。
米下院は4月、「トークン分類法(Token Taxonomy Act)」を議会に提出しています。この議員立法案は、証券法適用から仮想通貨を除外するという思い切った内容であり、法案が成立するようなことになれば、ICOで発行されるトークンは証券かコモディティ(商品)かの定義上の問題が決着する可能性が見えてきます。そうなれば、仮想通貨とICOの規制問題は、証券取引委員会(SEC)からCFTCへと大きく比重が移る結果になります。
参考
・Is the New CFTC Chairman Heath Tarbert a Bitcoin Ally or Enemy?
・U.S. DEPARTMENT OF THE TREASURY
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