FRBによる仮想通貨発行の可否で米下院議員らがパウエル議長に質問状提出

米下院金融サービス委員会がこのほど、米連保準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル(Jerome Powell)議長に質問状を提出、デジタル通貨つまり暗号資産(仮想通貨)を独自に開発する計画を持っているかどうか問いただしています。

米国とは深刻な貿易戦争の渦中にる中国は、人民銀行(PBoC)による独自のデジタル通貨(CBDC=デジタル人民元)を発行する動きがあります。また米国から経済制裁を受けているベネズエラは、政府の仮想通貨ペトロ(Petro)を発行して米国に対抗しています。FRBが質問状にどのように回答するか、仮想通貨業界は言うまでもなく、金融界全体が注目しています。

デジタル米ドルの発行は時代の趨勢かFRBに問いただす

質問状を提出した下院議員は、いずれも仮想通貨に理解を示すビル・フォスター(Bill Foster:民主)、フレンチ・ヒル(French Hil:共和)の2人。フォスター議員は現在、ブロックチェーンを支援する超党派議員連盟の共同議長を務めています。

質問状提出の背景は、マネーの本質が変わりつつある現状を鑑みて、FRBがこれらの変化を受け入れることに関して何らかの特定の見解を持つべきではないかとの前提に立っています。質問状は「デジタル通貨が紙幣の特質と公益性を持つ可能性があることから、FRBは米ドルのデジタル通貨を開発するプロジェクトを開始することがますます不可欠になるのではないか」と指摘しています。

ラガルド欧州中銀総裁はデジタル通貨開発を示唆

両議員は特に国際通貨基金(IMF)専務理事から欧州中央銀行総裁に就任するクリスティーヌ・ラガルド(Christine Lagarde)氏の発言を引用して、「世界の中央銀行は、仮想通貨の規制を超えて、個別の国家的デジタル通貨を開発」する可能性を指摘しています。

両議員の考え方は、仮想通貨が将来的にマネーそのものになりうる可能性があり、投機の領域にとどまるべきではないとするもので、1例として米ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)が、デジタルキャッシュの行内試験運用を開始したことを挙げています。

米銀代表ら12人の連邦諮問委員会がリブラ発行に強い危機感

米銀行業界の12人で構成されるFRBの助言グループである連邦諮問委員会(FAC)は最近の会議で、とりわけFacebookの仮想通貨リブラ(Libra)の発行について、強い疑念を表明しました。FACの言い分は、世界の消費者がリブラを採用すれば、銀行や伝統的な金融機関から離れていくことを恐れています。

FACは、リブラに代わりうるデジタル通貨は「本来グローバルな性格を持つような規制の枠組みの中でフォローされるべきものであり、それによって世界の金融システムの完全性が保護される」と提言しました。

質問状提出の背景に中国人民銀行のデジタル人民元発行計画か?

議員らが質問状を提出した動機は、中国の人民銀行がデジタル人民元を発行する準備が整ったという最近の報道があるとも考えられています。デジタル人民元はFacebookのリブラに似たところがあると伝えられています。つまり人民銀行は、リブラの普及に脅威を抱き、デジタル通貨発行に向けてFRBのはるかに先を行っています。

人民銀行のムー・チャンチュン(Mu Changchun)元決済副部長は2019年9月、デジタル人民元の発行準備は整ったことを確認し、発行の目的は「中国の金融主権を守るため」と述べて、人民元の国際的な地位を高め、米ドルと対抗する意志をあらわにしています。ちなみにデジタル人民元は11月にも発行されるとの報道が続きましたが、人民銀行スポークスマンはこれを否定しています。

参考
Will the Fed Take USD Digital? American Politicos Have Crypto on the Brain

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