2018年12月18日に、MicrosoftとNutrinoとHashHubの3社共催で、「ブロックチェーン・ビジネスサミット ~Beyond PoC~」が開催されました。本コラムでは各パネルからポイントを抽出して紹介します。
第一回目のパネルは、「2018年のブロックチェーンビジネスを振り返る」というテーマで下記のメンバーが登壇をしました。
- 小宮山峰史氏(株式会社bitFlyer 取締役CTO)
- 志茂博氏(コンセンサス・ベイス株式会社 代表取締役)
- 中村誠吾氏(日本ユニシス株式会社 プラットフォームサービス本部 基盤技術部PF基盤開発室ブロックチェーン技術課)
- 廣瀬一海氏(マイクロソフト株式会社)/ モデレーター
2018年はさまざまな企業がブロックチェーンの活用に向けて、実証実験を行いました。そこからどのような学びがあったのか、企業が行うブロックチェーンの実証実験は公になることはあまり多くありません。
本パネルでは、話せることには限りがありながらも、それらの実証実験やPoC(概念実証)の現在地について議論が交わされました。
企業のブロックチェーンの取り組みは、金融から非金融も目立つように
廣瀬:早速聞いていきたいのですが、この1年どうでしたか?実績もおありの小宮山さんからまずお聞きしたいです。(*bitFlyerは、エンタープライズ向けのブロックチェーンソリューションであるMiyabiを開発している)
小宮山:金融ももちろんあるのですが、非金融領域での応用も増えてきました。KYC(顧客確認)などさまざまな分野での実験事例が生まれています。
廣瀬:ブロックチェーンは確かに金融の文脈で語られること多かったですが、非金融領域は増えましたよね。その中でも特にこれは面白い、または発見があった分野などありますか?
小宮山:非金融なんですが、コインをいれることでエコシステムの滑走油になるような事例は面白いです。例えば、地域の活性化ですね。
廣瀬:日本ユニシスさんもさまざまなことをやっていますよね。Microsoftと一緒にやらせている案件もありますよね。
(左から:小宮山峰史氏、志茂博氏、中村誠吾氏)
中村:我々は2015年からブロックチェーンに関する取り組みをスタートしています。その後、2017年から案件が取れてきたものもあって、その多くのものもAzure上で動かしています。
その中の一つに電気に関する取り組みがあります。太陽光発電した電気を売ってもらうというものですね。この取引自体を直接やり取りしてもらうプラットフォームをブロックチェーンを利用して作っています。
この背景としては、電力の固定価格買い取り制度というものが2019年から順次終了していくことがあります。
これにより、家庭の中で発電、または余った電力は、他人に売るか安く電力会社に買ってもらうか、そのまま自分で使うかしかなくなります。
そこで個人間が売買できるプラットフォームがあれば、買う人も売る人もよくなるのではないかと考えています。
廣瀬:面白いですね。電力が売買されるということは、普通にお金が動くと思うんですけど、実証実験ではお金のやり取りもされているんですか?
中村:そこはコインといいますか、トークンを動かしてやり取りして実証実験を行っているという形ですね。
廣瀬:次は志茂さんですね。ICOのプラットフォームみたいなものを開発しているんですか?
志茂:そうですね。これもAzure上で展開していまして、ワンクリックでICO時に行うスマートコントラクトがブロックチェーン上にデプロイされるというものを作っています。
廣瀬:他にも実証実験やさまざまな案件を企業から受けていると思うのですが、何年かやってきて、2018年の傾向などございましたか?
志茂:2018年に関しては、実証実験のみというような案件は減ってきて、実用化前提で話が始まるというようなことが増えました。Azure上でデプロイするものかたゲームでの応用、パブリックブロックチェーンであればプライベートに繋いでサイドチェーンでやるというものまで、さまざまな案件がありました。これからこれらの中から実用までいくものが出ると思います。
廣瀬:各社、PoCは経験してきていると思うのですが、ブロックチェーンの導入が、PoCを超えるためにどうしたら良いのでしょうか?私もそうなのですけど、ブロックチェーン業界には、大量のPoCがあるんですよね。
そういったなかでMiyabiでは、3つ実利用の案件があると伺っていまして、PoCを超えられるプロジェクトとそうでないプロジェクトの間で違いはありますか?
単独アプリケーションではブロックチェーンの良さを生かせない
小宮山:単独のアプリケーションではブロックチェーンの強みを活かしきれない問題がありますね。基盤としてのブロックチェーンがあることを意識してもらい、大きな目標にアイディアが出てくるようにするというのが、重要ですね。自社だけではなかなか難しいですね。
もしくは完全に割り切って、ブロックチェーンを使っているかどうかにこだわらず、Oracleでも気づかないわけで、たまたま使ってうまく言ったと言うケースもあります
廣瀬:ブロックチェーンに適したユースケースはどんなものだと思いますか?どういった傾向の企業が合うのでしょうか?
小宮山:エンドユーザーが沢山いるようなサービスは無条件で合うと思います。10万ユーザーや100万ユーザーいるようなサービスですね。
あとは業界全体で社会基盤のようなものを作る時ですね。それがコンソーシアムチェーンで、その業界で公共性のあるようなものを作るようなイメージです。
廣瀬:逆にPoCをやりながら、ユースケースとして間違ってたりという話は結構ありますか?
志茂:正直かなりありますね。ブロックチェーンをデータベースとみなすみたいな話をどこかのメディアから持ってきたりして、勘違いしている人は多いですね。
ブロックチェーンは、何を作るかを考えることがすごく難しくて、そこはプロに任せたほうが良いのではないかと個人的に思っています。
廣瀬:私も色々な相談を受けていて乗っていて、データベースと誤解してユースケースを検討しているような事例は多いです。ですが、それであればDBのほうが良い。
よく僕が説明するのは、両手を挙げて信頼関係を結ぶ訳にはいかない企業同士で信頼できる約束を残せる場所として使うのがブロックチェーンだと説明してます。
それが実際に広がるとコンソーシアムチェーンになるわけです。製造した業者がいて、それ輸送した業者がいて、そのアクションごとに記録を残して、信頼になります。中村さんのほうでも何かありますか?
中村:皆さんが言われたのであまり話すこと無いですが、コンソーシアムが一つのキーワードになるかと思っています。最初はもし自社だけでやるにしても、その後にどれだけのステークホルダーがいるかをちゃんと組むことが大事です。
ブロックチェーンのビジネス事態はビジネスのプロセス、またはモデル自体を分散化します。実証実験は小さく行われるものである一方で、イメージを大きく描かなくては実用しないというジレンマはありますね。
2019年に各社が取り組みたいテクノロジーとは?
廣瀬:最後に、2019年にどういったテクノロジーに取り組んでいきたいか意気込みなどをお聞きしていきたいと思います
小宮山:1年先2年先を見るべきだと思っていて、最終的にはスケーラビリティの問題になるはずです。miyabiは4,000tpsなんですけど、有限なのでこれは無限にまでしなければいけないと思っています。DAppが2年後ぐらいになるとメジャーになるでしょう、そこでスマートコントラクトを超えるようなテクノロジーを作っていきたいです。
志茂:ビジネスにおいて秘匿系の技術は必要ですよね。この人が何にいくら動かしているというが台帳で公開されてしまうのは困ります。
あとは、DAppsなどで手数料をお客さんに持たせないようにするためにはどうするかなどですね。このへんの細かいUXに関わる技術が必要かと思っています。
金融系では規制もそうですが、STOとICOの標準化、AML/KYCのプロトコルが技術的には来年ぐらいには出てくるかと思います。
廣瀬:個人的には、トラストアンカーに着目していて、今までのブロックチェーンはアドレスは公開されていても、匿名でしたが、パスポートなどKYCが紐付いたものなどの取組がありますよね。そういうのは増えるんですかね?
志茂:今は取引所とか、いちいち使うごとに本人確認とか必要ですが、統一化したいよねという方向で動いていると思います。
中村:技術者を育成したいというのがあります。一方で、ビジネスエコシステムを構築するというのが私達の目指しているところです。
業界の垣根を超えて、ビジネスエコシステム作り、それを支える技術がブロックチェーンだと認識のもと活動している。2019年はさらにこうした技術を活用したエコシステム、ビジネスを展開していきたいです。
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