米政権がリブラ発行を容認か? ムニューシン財務長官発言の真意を読み取る

トランプ米大統領の右腕として知られるスティーブン・ムニューシン(Steven Mnuchin)財務長官はこのほど、米国は向こう5年間、連邦準備制度理事会(FRB)のデジタル通貨を発行する必要はないと言明しました。関連して同財務長官は、Fecebookが発行を計画しているリブラ(Libra)について、「いいと思う」と、これまでの発言を180度転換して初めて肯定的な発言をしました。

リブラ発行は一定の条件満たせば「いいと思う」

ムニューシン財務長官は2019年12月5日、米下院金融サービス委員会の公聴会で証言して、「FRBのパウエル議長と話し合ったが、われわれは2人とも、近い将来つまり5年先に、FRBがデジタル通貨を発行する必要はないとの見解で一致した」と発言しました。関連して同長官は、Facebookが計画している仮想通貨「リブラ(Libra)」の発行について、一定の条件を満たせば「いいと思う」と発言しました。

特にリブラ発行に関連して、同長官は「Facebookがデジタル通貨を発行しても、私はいいと思う。しかし、Facebookは銀行の秘密(保持)とアンチマネーロンダリング規制を完全に順守しなくてはならない。これがテロリストの資金調達に利用されることは断じてあってはならない」と発言しています。

FRBはデジタル通貨発行の恩恵(利益)とコストを検討中と確認

中国人民銀行(PBoC)など世界のいくつかの中央銀行は、デジタル通貨を発行する動きを示しています。欧州中央銀行(ECB)はまた、特に海外送金に有用であるとの見方も加えてデジタル通貨の開発を検討しています。

ムニューシン長官は毎週、パウエル議長と定期的な会談を行っています。FRBはここまで、デジタル通貨の開発を始めてはいませんが、開発に当たってその利益とコストを検討中であることを下院共和党のフレンチ・ヒル議員の公開質問状に11月19日付の文書に回答して、「われわれは米国の事情に照らしてどのような利益がありうるかを確認するため、ほかの中央銀行の活動を注意深く見守っている」と語っています。

FRBはデジタル通貨を開発するのに先立って、金融政策は言うまでもなくサイバー攻撃、ユーザーの透明性、金融の安定などの実務上のリスクに応えなくてはなりません。

トランプ政権はリブラ発行容認に変心か? 

米国の行政、立法関係者の多くはこれまで、リブラがテロリストや犯罪者の資金に利用されることを懸念してきました。Facebookは、貧困層や銀行サービスを受けられない地域、より多くの金融上の利用機会を与えるために、リブラを発行する主たる目的であると説明していますが、懸念は解消していません。

ムニューシン財務長官はさらに、規制上の問題を含めてFacebookの代表者と十数回の会合を開いてきましたが、これまでのところ「進展は遅い」ことを認めています。

ムニューシン財務長官が初めて、リブラ発行に前向きの発言をしたことについて、筆者はトランプ政権の180度政策転換があるのではないかと見ています。その裏付けは、トランプ氏が9月、10月に2回、Facebookの最高経営責任者(CEO)であるマーク・ザッカーバーグ氏をホワイトハウスのオフレコ(非公開)の夕食に招いた事実です。この会合でザッカーバーグ氏は、リブラ発行が米国の金融、経済全体にプラスに働くことを強調したはずです。事態の進展を注視しましょう。

参考
Mnuchin, Powell See No Need for Fed to Issue Digital FX
Mnuchin Has No Problem With Libra Crypto Launch; Agrees With Powell, No Need For A Digital Dollar

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