TRONのSteemit買収で見えるDPoSの中央集権化

トロン財団(Tron Foundation)によるソーシャルメディア・プラットフォーム「スチーミット(Steemit)」の買収において、コンセンサスアルゴリズムであるデリゲイテッド・プルーフ・オブ・ステーク(DPoS:Delegated-Proof-of-Stake)の中央集権化に関する議論が繰り広げられています。

Steemitの基となっている仮想通貨スチーム(Steem)のコミュニティは、トロン財団とスチーミット社(Steemit Inc.)が持つ議決権を排除するため、2020年2月24日にSteemブロックチェーンのソフトフォークを試みましたが失敗に終わり、トロン財団の創始者ジャスティン・サン(Justin Sun)氏と、買収に関わった3つの大手暗号資産(仮想通貨)取引所が激しく非難されました。

Steemit買収騒動

Steemitは分散型ブログプラットフォームであると主張されています。しかし、DPoSの実効性と、プラットフォームの非中央集権性に対する議論は尽きず、今回の買収によって中央集権化への不安は更に高まりました。

2月14日にスティーミット社前最高経営責任者(CEO)のネッド・スコット(Ned Scott)氏は、TwitterでSteemitをジャスティン・サン氏に売却したことを発表されましたが、Steemitユーザーの多くはプロジェクトが崩壊すると考え、スチーミット社とトロン財団の議決権を弱めるためにソフトフォークの実施を求めました。

しかし、スチーミット社とトロン財団は、ポロニエックス(Poloniex)、バイナンス(Binance)、フォビ(Huobi)を利用してソフトフォークを阻止したとされています。この阻止について、アカウントの投票力を上げるトークンであるスチーム・パワー(Steem Power)が、3つの取引所から4,200万SP導入されており、コミュニティは取引所を利用した「敵対的買収」であると非難しています。

生まれてしまったチェーン攻撃事例

今回の騒動を受けて、イーサリアム(Ethereum)のヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏は、自身のTwitterで「SteemのDPOSが大手取引所によって乗っ取られたようだ。これはコインのガバナンスに対する、最初の賄賂攻撃(bribe attack)の実例となるかもしれない」と述べています。この事例によって、DPoSとプルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake)との脆弱性に対する議論が始まっています。

ビットコイン・コアの開発者であるジョージ・ティモン(Jorge Timon)氏も、ブテリン氏のツイッターに対して、「DPoSは金権政治の道具であり、今回の買収問題は攻撃ではなくDPOSの特性の一つだ」と答えています。また、他の仮想通貨コミュニティからは、取引所に預けられた顧客の出資金をガバナンスの投票権を得るために用いてよいのか、という疑念の声も上がっています。

Steemit開発チームによって投稿されたブログは、「今回のソフトフォークは悪意に満ちたものだった。しかし、今後4~6週間のうちにコミュニティを正常に戻し、その後ガバナンスをコミュニティに戻す」と説明しており、また今後のハードフォークについても実行を強調しています。ブログでは「SteemブロックチェーンはTRONと並行して機能することで、ユーザーに多くの利益をもたらすようになる。優れたエコシステムと、1,500万のユーザーコミュニティによって、スティーミットはさらに多くのユーザーを獲得するだろう」と述べられました。

この記事によって、少数のソフトウェア開発者がSteemのアプリを削除した他、コミュニティリーダーが突然辞任を表明したなどの影響が出始めています。

参考
Tron’s Steemit Acquisition Exposes Delegated-Proof-of-Stake Centralization

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