ABE GLOBALとは?
「ABE GLOBAL」というスタートアップの動きがユニークなので、紹介します。創業メンバーは、以前に債券のマーケットプレイスなどを起業して、ニューヨーク証券取引所の親会社に売却経験を持つ起業家などであり、2018年8月には、ディストリビュート・グローバル(Distributed Global)、ギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)、グミ・ベンチャーズ(Gumi Ventures)などの企業から300万ドル(約3億3,000万円)を資金調達しました。2019年の夏頃にはSTO(セキュリティー・トークン・オファリング)のプラットフォームをローンチして、年末までに100の企業をリストすることを目標にしています。
ABE GLOBALはアメリカの企業にスモールIPOを実現するというようなビジョンを描いています。アメリカでSTOが注目される理由の一つですが、アメリカでは投資家保護の背景を主として、公開市場に小型の会社は上場していません。日本では時価総額が二桁億円前半で上場をできるスタートアップ向けのマザーズというような市場がありますが、米国にはそういった市場がありません。
これは投資家保護を実現していながらも、
- 個人投資家が購入できる株式が制限される
- スタートアップにとってIPOまでの道のりが長く平均10年以上かかる
という課題があります。ABE GLOBALは、その問題をSTOで解決しようとするプロジェクトのひとつです。
STOの現実とABE GLOBALが考えるアプローチ
STOはすでに数多く行われていますが、今のところ、米国証券取引委員会(SEC)の認可を得た上で、適格投資家向けに販売されています。しかし、トークン化したところで、期待されていた流動性を持つセカンダリーマーケットはできていないことが現状です。これは、購入できる投資家が制限されていることや魅力的な株式がトークン化されていないなどの複合的な要因が影響しています。
ABE GLOBALは、このようなSTOの現状にユニークなアプローチを持ち込みました。ABE GLOBALは、アメリカを拠点としますが、マルタなどにも子会社があり、その子会社を通してヨーロッパなどでも投資家に向けた会社説明会を行い、トークンの売り出しができるようにします。
マルタに上場をした会社のトークンは、depositary receipts (DR)という形式で、他国の規制下で購入できるようにします。American Depositary Receipts(ADR)は、異なる証券取引所間で同じ株式を購入できる仕組みで、日本語では米国預託証券という名称で知られています。ADRの仕組みを簡単に述べるなら、米国以外の国で設立された企業が発行した株式を裏づけとして米国で発行される有価証券となります。
例えば、中国の企業であるAlibaba(アリババ)も、アメリカのニューヨーク証券取引所に株式上場をしておりますが、ADRの形式で米国投資家の間で売買されています。ABE GLOBALでは、マルタに上場をしたトークンを、他国にある子会社を通じて、ADRとして販売をします。つまるところ、トークンを発行して、各国の規制に合わせたアービトラージ(裁定取引)をしつつ、グローバルで流動性を得られるような仕組みを構築するという計画です。
ABE GLOBALが目指すSTOの未来
現在、アメリカの市場でIPOを行う場合の費用として、小規模のものでも320万ドル(約3億5,000万円)から大規模のものとなると700万ドル(約7億7,000万円)と非常に高くなっています。(PwC調べ)
ABE GLOBALは、このコストを20万ドルから50万ドル(約2,200万円から5,500万円)まで削減するとしています。もっとも上記のように、コスト削減をして効率的な調達を実現することは言うほど簡単ではない道のりですが、STOはこういったコスト削減をすることが目指されている世界です。金融という領域が資本の流動性・移転性を高めるための技術と定義すれば、コンプライアンスコストを削減するSTOは妥当な方向に進んでいると言えるでしょう。
関連
・今、なぜトークン設計を分析して、投資判断をするべきなのか?
・株式投資型クラウドファウンディング市場からSTOの将来を考える
参考
・Considering an IPO to fuel your company’s future?
・New Security Token Exchange ABE Wants to Bring Back Small-Cap IPOs
・ABE Global takes a Unique Approach to Security Tokens
・ABE Global HP
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