ブロックチェーンのガバナンス問題
ブロックチェーンのガバナンス問題については、以前から議論が活発なトピックです。トークンを用いたガバナンスは現在、さまざまなプロジェクトが実験的に取り組んでいる分野です。一般的にオンチェーンガバナンスと呼ばれるものの多くは、トークンホルダーらが自身のトークンを一定期間ステーキングをするなどして投票に参加し、プロトコルのアップデートの方針やコミュニティファンドの資金使途などに意見できるというものです。
例えば、テゾス(Tezos)、ポルカドット(Polkadot)、メイカーダオ(MakerDAO)、ゼロエックス(0x)、アラゴン(Aragon)といったプロジェクトがこういったガバナンスの仕組みに取り組んでいます。下記のスレッドでは、オンチェーンガバナンスの問題点について示されています。
1/ Apparently @AragonProject is considering a vote to use their ETH treasury funds to buy DOTs. I'll use this as a reminder of why token (on-chain) governance is a horrible idea.
Let's use recent ZEIP voting from 0x as a proxy for how much it would cost to manipulate this vote.
— Eric Conner (@econoar) 2019年4月13日
2/ ZEIP-23 got 5,061,033 ZRX cast. That's ~1% of total ZRX circulating supply.
On @compoundfinance there are 2,808,000 ZRX to borrow at 10%. Given a time deadline on these votes, a single person could have come close to swinging the ZEIP-23 vote for $238 (1 day of borrowing).
— Eric Conner (@econoar) 2019年4月13日
3/ Now, ANT is not currently on @compoundfinance but as DeFi grows, it will be possible.
This means that the cost to swing an on chain governance vote with a set deadline only costs a few hundred dollars.
Imagine being a big beneficiary of a proposal, this is a no brainer.
— Eric Conner (@econoar) 2019年4月13日
現在、ダオ(DAO)のフレームワークを開発するAragonでは、Aragonファンドが持つイーサリアム(ETH)の一部をPolkadotのドット(DOT)トークンを購入するために使用するべきかどうかの投票が行なわれようとしています。AragonはDAOのフレームワークを作るプロジェクトですが、Aragon自身もDAOであり、プロジェクトの方向性や資金の使い方については、トークンを用いた投票によって行なわれます。
Aragonについては、こちらの記事に詳細な説明があります。
今回、その資金を用いて、DOTを購入する理由は、イーサリアム(Ethereum)の競合プロジェクトになり得るPolkadotの登場における資産のヘッジであるとしています。引用ツイート元では、0xのゼロエックス(ZRX)トークンを用いた過去の投票を例に出して、この仕組の欠点を述べています。
安価なコストで投票操作ができる事実
0xで行なわれた23番目の改善提案(ZEIP-23)の投票では、 わずか5,061,033 ZRXが投票に使われ、 全体供給量の1%に満たないZRXホルダーが投票をしました。その間、マネーマーケットプロトコルであるコンパウンド(Compound)の流動性プールにZRXは供給されており、低い金利で借入をすることができました。
つまり、ZRXトークンを借入して投票の一日だけ使用して、レンディングしたトークンを返済すれば、非常に安価なコストでプロトコルの投票に参加、ひいてはプロトコルの方向性をコントロールできるという問題点が指摘されています。
これと同じことをAragonの今回の投票にあてはめると、非常に安い投票コストで、「DAOが保有する資金を何に使うか?」という、資金面では極めて重要なガバナンスに参加できることになります。
現在、AragonはCompoundに上場されていませんが、分散型金融(DeFi)の経済圏が拡大すれば、容易に借入できるようになるでしょう。Compound自体も執筆時点で、コードが監査中の状態にあるバージョン2のアップデートで、あらゆるERC20トークンに対応するようになります。
このような指摘は、現在、注目度が高いMakerDAOの維持手数料(Stability Fee)の投票などにも当てはまります。メイカーダオ(MKR)トークンを安価な金利で借入して投票に参加をすることは、MakerDAOの経済圏が成長した将来を想像すると、極めて効率の良い攻撃ポイントになりえます。
こういった問題は投票のメカニズムが変更されない限り、ミドルウェアプロトコルのオンチェーンガバナンスは機能しないでしょう。オンチェーンガバナンスの課題を挙げれば数多くありますが、これはその課題のひとつといえます。
ガバナンストークンというコンセプトは、投資家やトレーダーの層にとって関心が低いトピックであると想定しますが、今後、これらのモデルも成熟すると、投資判断をする際のファンダメンタルの一つとして調査する項目の一つになるでしょう。
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