サウジアラビア2019年半ばに中銀独自の仮想通貨発行へ

世界の10を超える国が、中央銀行独自の仮想通貨を発行する計画を進めていると伝えられていますが、発行までにはさまざまな問題を考慮しなくてはならず、実現は容易ではありません。そんな中、最もあり得ないと思われたサウジアラビアで、中央銀行に相当するサウジラビア通貨庁(Saudi Arabia Monetary Authority=SAMA)が2019年半ばに、独自の仮想通貨を発行することが政府当事者発言から確認されました。

サウジとUAEとの国際決済に利用するコイン発行計画が始まり

国営サウジ通信(Saudi Press Agency)は2018年11月20日、SAMAのイノベーション責任者モフセン・アル・ザフラニ(Mohsen Al Zahrani)氏が、19年半ばに中銀支援の新しい仮想通貨を発行する予定との発言内容を伝えました。このプロジェクトを進めている作業チームは現在、仮想通貨発行が及ぼすインパクトを評価中としています

一方、隣国アラブ首長国連邦(UAE)のムバラク・ラシッド・アル・マンスーリ(Mubarak Rashed Al-Mansouri)中央銀行総裁は11月19日、その仮想通貨がすでに設計段階に入っていると語りました。

マンスーリ総裁は、発行される仮想通貨は法定通貨に取って代わるものではなく、銀行が利用する新たな決済ツールであって、個人利用を目的としてはいないと述べています。ザフラニ氏によると、仮想通貨発行はそもそも17年12月に始まったUAEとの共同プロジェクトであり、当初は19年Q1開始を予定した銀行相互のブロックチェーン決済システム開発計画です。

プロジェクトは、リップル社(Ripple)の支援を受けて始まりました。サウジアラビアとUAEの中銀は、技術面の実装に向けてプロジェクトを進めてきました。

サウジ国内、国際決済はSAMAが集中管理

プロジェクトは、両国の国際決済を可能にするサウジアラビア中銀発行の仮想通貨を開発することです。ザフラニ氏はSAMA決済部門のイノベーションセンター責任者として、「ブロックチェーン台帳技術によるトークン発行は、中銀が受け入れるのは容易なことではない。われわれは手始めに、それが何かを理解しなくてはならない」と、慎重な発言をしています。

サウジアラビアでは、国内、国際決済はSAMAで集中管理されており、ATMやPCS(販売時点管理システム)の全国ネットワークに一元化されています。SAMAは市中銀行に対して、新しいテクノロジーへのイノベーションを先導しており、レギュラトリー・サンドボックス(現行規制を一時的に停止する規制緩和)を施行したり、商業銀行に対してリップルの国際決済システム実装テストに参加するよう呼びかけてきました。

小売決済など幅広い活用も視野に金融イノベーションに先行

ザフラニ氏は金融とテクノロジーに特化したメディアの「DigFin」の取材に対して、「われわれにとっては効率が最大の関心事である」と述べ、仮想通貨発行は実際には、国内ではユースケースは当面存在せず、サウジの通貨リヤルとUAEのディルハムとの決済に限定して、仮想通貨を使う考え方を示していました。

同氏は「われわれはデジタルに反対しているのではない。だから自国のデジタル通貨発行に努めている。しかし、発行する理由、それをいかにして誰が管理するか、誰が保証するかなど、問題は数多くある」と述べ、プロジェクトは当初、国際的な企業取引に向けたものであると、次のように語りました。

「これは単なる実験ではない。現実の話であり、うまく進まなければ、中断するまでだ。しかし、われわれの最終目標は、その利用を拡大することだ」

ザフラニ氏がそう語る意味は必ずしも明白ではありません。国際決済をUAEに限定せず、他の地域の中銀や商銀に広げることも視野にあるでしょう。同氏は当面、消費者向けの小売決済は理論的には可能であっても、すぐ実現することは想定していないことは発言から明らかですが、サウジアラビアが金融システムのイノベーションを想定して、デジタル通貨の幅広い活用で優位な立場になろうとしていることは間違いありません。

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参考
argaam
DigFin

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