シェアリングエコノミーのスペシャリストである佐別当隆志氏が、2019年4月からサービスを開始した多拠点生活を叶える「ADDress(アドレス)」。全国の拠点では住居という器だけではなく、人との交流を含めた生活の幸福度が上がる仕組みを提供することも目指している。
「ADDress」を始めた目的や拠点とする決め手、シェアリングエコノミーの今後の広がりや魅力について幅広く語ってもらった。

【プロフィール】
株式会社ガイアックス在籍中、2016年1月に一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し、事務局長に就任。株式会社アドレスを設立し、2019年4月より、定額全国住み放題サービス「ADDress(アドレス)」を開始。幸福度が上がるようなサービスを伴うシェアリングエコノミーの普及を目指す。

幅広い世代から注目される多拠点生活

-今年の4月にリリースされた反響をお聞かせください。
去年の12月20日にサービスの発表をして、当初はウェブを中心に口コミで広がり、いろいろなメディアに紹介していただきました。サービスをスタートした4月に入ってからは、物件ができたこともあり、そこでのイベントの様子をテレビや新聞などで紹介していただく機会が増えましたね。当初、ほぼ20〜40代の方だけの問い合わせだったのですが、50代60代の方からもかなり増えてきてまして、限定的な会員募集にも関わらず、2,000人以上の方からお問い合わせいただいています。反響の大きさは想像以上ですね。

-年代の割合やそれぞれのニーズはどういったものですか?
20~40代の方が7割ほどを占めますが、50代も60代の方も少なくなく、幅広い年代の方に興味を持っていただいています。ワークスタイルや趣味嗜好といった価値感的なところの共通項はありますが、年齢・性別・年収では分けづらいですね。具体的に言うと、サーファーだったり、キャンピングカーで転々とされていて全国多拠点で自分の趣味を楽しみたい方だったり、そのほかにも地域の方々とも交流しながら楽しみたいという方が多いですね。また、光回線を全拠点に入れているので、プログラマーやクリエイター、ライターの方は、仕事場として使う方もいらっしゃいます。

自分の楽しみをみんなに広げたい

-どういった目的でアドレスというサービスを始めようと思ったのか、お聞かせください。
僕自身が、家族と住む家をシェアハウスにして運営したり、民泊をしてゲストを招いたりと、いろんな人と交流ができるような暮らし方をしていたんです。その延長線上で、シェアリングエコノミー業界の団体を作ることになり、シェアが公私ともに当たり前になっていきました。多拠点生活にも関心があったので、様々な地域でシェアして暮らすというライフスタイルにしたいと思うようになったんです。

それと、地方自治体から「シェアハウスを導入したいのでサポートしてほしい」という問い合わせがすごく多かったんですよ。シェアリングエコノミー協会の仕事として第三者的にサポートに入るのではなくて、自分自身が起業家として、自分の楽しみをみんなに広げたいと考えてADDressをスタートしました。

初の商店街拠点はレコードコミュニティースペース

-初の商店街拠点を宮崎県日南市に作られましたが、反響はいかがですか?
日南の商店街拠点は、15年間シャッターが閉じたままの元果物屋さんで、商店街の交差点のど真ん中に位置する誰もが知っているエリアなんです。シェアリングエコノミー協会で日南市と一緒に活動していることもあって、役所の方からご紹介いただき、購入しました。

地域の様々な世代の人たちが自然に集まれる、文化的な施設ができると嬉しいと聞いて、いくつかの案の中からおじいちゃんおばあちゃんも参加しやすいような、レコードが聴けたり食事ができたりするコミュニティスペースをつくることにしました。都心から来る僕らの会員さんもレコード好きな人は多いですし、音楽が共通言語になるんですよね。

-そのように地元の方と一緒に作っていくことが多いのですか?
地元の方と一緒に作っていくのは、すごく重要だと思っています。その土地の共同体みたいなコミュニティーを今の時代に合った形で作っていきたいんですね。それって、地域に住んでいる人だけでは厳しいですし、定期的に通ってくれるような人たちがそこに入ることで、はじめて新しい共同体が生まれてくると思っているんです。そこで、僕らは家守(やもり)っていう、地域に住んでいる人や住み込んで地域とのハブ役になってくれる方々を重要視しています。日南の場合は、そうやって地域作りをしている方々が多かったので進めやすかったんですが、どんなエリアでも家守の存在、人の存在を大事にしていますね。

-今後、商店街に拠点をどんどん増やしていきますか?
商店街の場合は、人が来てくれたら喜んでくれる人たちが多かったので、今後増やしていきたいエリアですね。今、お話もいくつかいただいています。

多拠点生活だけでなく、人との交流が魅力


-ユーザーのニーズとして、ただ多拠点生活したいっていう以外に交流を求めるというのもあるんでしょうか?
むしろ交流を求める方が多いですね。実は、住む場所だけ欲しくて交流したくないという方はお断りしています。みなさん職業も年齢も幅広くいろんなタイプの方がいますが、人との交流が好きな方たちです。海外の方からも問い合わせが来ているので、そのうち日本在住の外国の方が参加するようになるかもしれません。

今後は政令指定都市に物件を増やすことで、出張時の滞在にも

-最初は東京近辺で増やしていくということだったと思うのですが、今は全国各地にかなり広がっていますよね。
僕らも関東でやろうと思っていたんですけど、蓋を開けてみたら地方会員の方々が3~4割いて。地方に住みながら家業や実家を守っていかないといけなくて、他の地域に引っ越しができないけど多拠点生活をしたいという地方在住者が結構いたんですよね。最初、僕らは都心から地方へがコンセプトだったんですけど、地方から地方、地方から都心っていうニーズも強いなっていうのがわかったんです。

-関東近辺と地方それぞれで、どこの場所が一番選ばれてますか?
東京に近いところでは、北鎌倉が圧倒的に人気ですね。それと、私の品川の家を一部屋だけ登録してるんですよ。最初はそれが一番人気で、今はほぼ埋まっていますね。地方だと静岡県南伊豆の温泉付きの家や千葉県南房総の海が一望できる家が人気です。地方の場合やっぱり移動時間がかかるので、5日~1週間くらいで長めに滞在する方が多いですね。大分県別府の鉄輪温泉近くにある広い露天風呂付きの物件は個人的に大好きです。

-物件を選ぶ決め手と今後増やしていきたいタイプを教えてください。
地域のコミュニティーが盛り上がってるかどうかとか、家守が見つかるかどうかを重要視しています。僕らがよく知らず、地域のつながりもあまりなくて、家守をお願いするのも難しいとなると、箱だけ作っても仕方がないのでそこは選びません。他にも商店街とか、温泉付きとか、里山とかバラエティ豊かなところを選びたいと考えています。

今後は大阪や名古屋など、政令指定都市にも増やしていきたいと思っています。光熱費込み、家賃月4万円でどこでも住めるとなったら、どの地域でもニーズはあると思うんです。また、新たに学生さんの会員も増やしたいと思っているので、これからPRしていくつもりです。一方、法人は今は6社ぐらいなんですね。リクルートさんといった大手企業も、働き方改革を進めていく中、リモートワークやワーケーションなどの文脈で利用されているようです。政令指定都市に物件が増えれば、出張時に使うことができると、望んでいるユーザーも多いようです。

オーナーは日本の古き良きおすそ分け文化を知る紳士淑女


-オーナーさんはどのような方が多いですか?
その地域を大事にしたい方や、家だけでなくその地域の関係性を大事にしていることに理解を示してくれる人たちに使ってほしいという思いを持たれているオーナーさんが多くて、みなさん紳士淑女でほとんど年配の方ですね。多分、シェアリングという言葉を知っている方は多くないと思うんですが、信頼関係のある人たちで分かち合うような文化は、昔から体験されているので、話せばすぐ理解していただけます。

-会員の方とコミュニケーションをとりたいというオーナーの方も多いですか?
はい、オーナーさんが家守を紹介してくれたり、オーナーさんが隣に住んでいたりとか。イベントにオーナーさんや家守の方が、会員と一緒に参加したりしています。

多拠点生活の希望者は多い

-今回クラウドファンディング「CAMPFIRE」の資金がかなりのスピードで集まりましたが、要因としては何が大きいと思われますか?
去年の年末にリクルートさんがトレンド予測でデュアラーが増えるだろう、潜在的に多拠点生活をしたい人たちが2,000万人いると発表していました。二拠点や多拠点で暮らしてみたいと思っている人たちは、潜在層としてもともとたくさんいたと思うんです。それが、シェアリングの考え方やテクノロジーを使って、低価格で提供できるようになったので顕在化したのだと思います。

今、自治体との提携もどんどん増えているんです。自治体は、移住・定住を増やしたいのですが、いきなりは難しいため、移住を検討している人にお試し居住みたいな形で1泊1,000円などの安い金額で物件を提供していることがあります。そういった物件を貸していただいたりして、自治体は移住の入り口になるサービスとしてADDressを受け入れてくれることもあります。会員の中にも、自分の好きな場所を見つけるためにADDressを使っている人もいますね。

-ユーザーに伝えたい一番の大きなメリットはどこにありますか?
自分の生活がADDressによってどんどん変わっていく体験ができることですね。僕もそうですけど、毎日都会の決まった場所での生活は、出会いも刺激も少なくて、日常が白黒みたいな感じですよね。ADDressを使えば暮らせる地域がたくさんできて、いろんな出会いがあるので、今住んでいる場所ではないところでの時間の方がメインになっていくんです。都会に住んでいた人が、わざわざ遠方での生活を日々の中心にしたり、自分の家を解約してしまう人までいます。新しい自分の日常をどんどん作っていく体験ができるんですよ。

シェアリングエコノミーで幸福度が上がることが重要


-地方とシェアリングエコノミーは、今後どうやって広がっていくと思いますか?
シェアリングエコノミーはまだ都心部のみでしか広がっておらず、地方では「シェアリングって何?」という状況です。完全にシェアリング空間であるADDressが地方に1軒できれば、そこに関わってくださる方々のシェアリングに対する理解は得られるのではないかと思います。そうやって少しずつ広がっていくといいなと考えています。ADDressだけじゃなくて、クラウドファンディングやクラウドソーシングなどの、都市と地方を繋げるいい活用の仕方が地方でも生まれ始めているので、それがモデルケースとなり徐々にその輪が広がっていくと思います。

-ご自身が感じるシェアリングエコノミーの魅力や重要性を教えてください。
いわゆる家主不在型の民泊みたいなものって、シェアリングじゃないと思っています。メルカリのようなサービスもCtoCという意味ではシェアですが、シェアの本当の良さを伝えるにはもうちょっと何かが必要だと思っています。それが交流だったり、個人のスペシャリティを感じられることだったり。また家族のような関係性が生まれるようなシェアサービスが、根本的な魅力だと思っているんですね。一言で言えば幸福度が上がるようなサービスこそが重要で、シェアリングエコノミーの魅力だと思います。

-佐別当隆志さん、貴重なお話をありがとうございました!

インタビュー:NANASE

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