
「通貨としてビットコインは欠陥である」このような指摘は、数年にわたり繰り返された指摘です。では実際のところ、具体的にどのように欠陥なのでしょうか。本コラムでは改めてそれらを整理してみます。
決済としての暗号通貨のメリット・デメリットの整理
決済として暗号通貨、とりわけビットコインのデメリットを羅列すると次のようになります。
- ブロックタイムが10分である
- ネットワーク秒間7トランザクションしか処理できない
- 一度ブロックに取り込まれても、数ブロック程度であるとブロックチェーンが覆る可能性がある。(確率的ファイナリティ)
- 価格が安定しない
- ネットワークが混雑ときの問題
- 間違えたトランザクションをキャンセルできない
一方で、ビットコインの決済における場面のメリットで考えると、以下のようなものになります。
- クロスボーダーですぐに決済ができる
- インターネット上で投げ銭などに便利
- 少額決済に比較的向いている
といったところです。今のところメリットのほうが限定的で、使われる場面も多くないことは言うまでもありません。
通貨として見たときのビットコインの設計の欠陥
ビットコインが決済として使用されずらい大きな理由の1つにボラティリティがあります。
具体的には、今日100万円売った売り上げが1ヶ月後に80万円になっているなどのリスクは往々にしてあります。
この点について、「将来ビットコインがさらに大きな流動性を持って、ユーザーが増えたらボラティリティは下がるのではないか?」という希望的観測を挙げる人もいますが、この答えは、恐らくノーです。
通貨としてビットコインを見た場合の設計欠陥は、供給スケジュールです。ビットコインは、供給スケジュールが硬直的です。10分に1度の間隔で新規のブロックが生成され、マイナーには報酬として、現在は12.5BTCが配分されます。
ビットコインの制度欠陥、特に貨幣としての欠陥はこの10分に1度必ずブロックが生成され、どんな状況でもビットコインが新しく供給され続けることです。これは中央銀行の発行する通貨では金融政策が行え、中央銀行は物価の調整が担うべき役割です。
つまり貨幣の価値が相対的に下がっていたら貨幣の供給を絞り、物価がデフレであれば貨幣の価値が相対的に高くなっているので貨幣の供給を増やすという役割で、ビットコインはこのようになっていません。ビットコインの価格がどうなっていようが、10分に所定の枚数のビットコインが供給され続けます。
また、ビットコインは、しばしばデジタルゴールドとも呼ばれ、ビットコインの設計思想はゴールドをモデリングしている部分があると同時に、供給スケジュールに関しては異なります。ゴールドもビットコインも、それが新規で市場に供給されるには、採掘コストを要します。
鉱山を掘るには人件費も、掘削機への投資が必要になり、ビットコインはこの点をモデリングしています。つまり、ゴールドが無から生まれることはなく、それを手に入れるには、何かしらの代償を払わなければいけません。また、人類がこれまでに掘り出したゴールドの総量は14万~15万トン程度だといわれ、今後掘り出し得る金の地下埋蔵量は、6~7万トン程度といわれていて、ビットコインの供給量が2,100万枚で限定的な点に似ています。
しかし供給スケジュールについてゴールドであれば、金の市場価格が下がっていたときは、ゴールドの採掘の経済的コストが合わなくなり、ゴールドマイニング会社はマイニングを止めます。そのとき、金は市場に供給されなくなり、需要が下がっているときに、供給が絞られるという現象が起きます。
しかしビットコインの場合は、価格が下がっているときでも、ブロックチェーンの台帳は更新され続け、ビットコインの新規供給は続きます。ビットコインはそのネットワークの維持に新規のコインの生成を結びつけた点は、非常に革新的でしたが、これを結びつけたことにより発生している通貨としての欠陥は、供給スケジュールの固定です。
こういった供給スケジュールを用いている限り、将来的に機関投資家を含む多くの市場参加者に取引をされても、価格の安定は設計時から難しいと言えます。以上が、ビットコインを通貨として見たときの欠陥です。
このような指摘は岩村充教授の論文、『Can we stabilize the Price of Cryptocurrency?』や『中央銀行が終わる日―ビットコインと通貨の未来』が詳しいです。
ビットコイン(BTC)は新しい資産クラス
ここまでビットコインの通貨としての欠陥を示しましたが、しかしながらこれはビットコインそのものが欠陥であるということではありません。ビットコインはゴールドを模倣したデジタル上のコモディティとしては非常に上手く機能しており、筆者はその点を高く評価している立場をとっています。
「通貨にはなれないが、新しい資産クラス」であるというビットコインへの評価は、つまるところ本コラムで示した内容に集約されるでしょう。
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