金融庁長官が規制の方向性を展望
3月10日にBG2C国際会議が行われ、金融庁長官がこれからのブロックチェーン規制のあり方について見解を示した。
金融庁と日経新聞社が主催するブロックチェーン関連の国際会議「ブロックチェーン・グローバル・ガバナンス・カンファレンス(BG2C)」が、「金融多様化のためのマルチステークホルダープラットフォーム-ガバナンス新時代の到来-」と題したパネル会議を実施。現在、オンラインで一般公開されている。
パネル会議には、金融庁長官の遠藤俊英氏、ジョージタウン大学のリサーチ・プロフェッサー松尾真一郎氏、個人インターネットインフラコンサルティング会社VeriFi会長のピンダー・ウォン氏などブロックチェーンのガバナンスに関わる国内外のキーパーソン達が参加。ブロックチェーンに関する国際的な協力体制を中心に討論された。
その中から、本記事では、金融庁長官の遠藤俊英氏による、規制のあり方についての発言を紹介する。
イノベーション促進と規制目標のバランスが重要
会議の中で、金融庁長官はイノベーションの促進と規制目標の達成との間でよりよいバランスを実現することを強調した。長官発言の骨子は次の通りである。
2008年にデリバティブ取引がきっかけとなって流動性が枯渇したように、新しい技術は大きな機会やチャンスをもたらすと同時に、リスクも生み出すということがある。
新しい技術である仮想通貨の取引量は、既存の金融と比べて非常に小さいものの、相互接続性によって、金融システムに大きな影響を与えかねない。
この時に、金融規制当局として金融庁の責任は、金融危機を前もって防止することにある。同時に、イノベーションが持続可能な、健全な社会の発展に寄与するように仕向けていかなければならない。新しい技術の変化についていけなければ、規制当局は、その責任を果たしたことにはならない。
またその上で、ブロックチェーンに基づくシステムは、インターネットアーキテクチャと多くの共通点を有するため、インターネットのガバナンスが参照できる。
インターネットにおける現在の標準やプロトコルは、オープンでグローバルな非営利組織であるインターネットエンジニアリングタスクフォース、IETFで開発されている。
IETFのラフコンセンサスと、ランニングコードという理念は、分散化されていく金融システムのガバナンスを設計する際の一つのモデルになるかもしれない。
規制当局もステークホルダーの一員となる
続けて、同長官はマルチステークホルダーによる協働ガバナンスが重要だとして次のように話した。
金融庁は、STOやAMLなどに関する規制の整備を行ってきたが、分散型の金融システムをうまく機能させるには規制当局だけでは十分ではない。
規制当局はテクノロジーコミュニティや学会など他のステークホルダーとの連携を強化し、顧客の安全を守っていかなければいけない。
特に、これまで規制当局とテクノロジーのコミュニティーはあまり対話をしてこなかったが、両者がコラボレーションすることが重要と考えている。
従来型の規制では、銀行や証券会社など金融機関をベースに行われていた。だがブロックチェーンではそうした仲介機関が存在せずに、プレーヤーが直接繋がり合う。
しかし一つ一つのプレーヤーを規制するのは難しい。トップダウンのアプローチも困難である。
そこで、規制当局もステークホルダーの一員となることが望ましい。マルチプルガバナンスに参加をして、良いガバナンスを構築するために、その参加者の一員となり、他のステークホルダー(エンジニア、事業者、学会など)と一緒に、新しい形の規制を作っていく。
以上のように、金融庁長官の遠藤俊英氏は、これからの規制のあり方についてのビジョンを示した。
トップダウン型で規制当局が各機関の上から規則を課すよりは、技術者、仮想通貨・ブロックチェーン事業者、関連学会などの様々なステークホルダーが協働する場所を作り、その中でより良いガバナンスを形作っていくことが理想的だという方針である。
ソースコードが書ける金融庁職員の育成
ジョージタウン大学の松尾真一郎氏からは、「監督当局がBitcoinのソースコードを作ったらどうなるのか」「当局、研究者とエンジニアが協力してギットハブなどを活用して作る」ことも有り得るという意見が出された。
遠藤氏は、金融庁は、他の日本の官庁に比べると多種多様な人材を採用しており、IT、数学を専攻した学生も積極的に採用しており、こうした人材を、アメリカやヨーロッパの大学に派遣をしてブロックチェーンの研究プログラムに参加させていると述べた。
また金融庁の職員が将来、Bitcoinのソースコードを書けるようになり、ガバナンスを構築する国際的なネットワークに参加してもらいたいと展望を語った。