FacebookのLibraの新しいホワイトペーパーを読み主要な変更点を整理する

FacebookのLibra計画に大幅な変更が加えられたことは先日の報道の通りです。本コラムではFacebookが主導するLibraプロジェクトのWhitepaper v2.0で示された主な変更点を概観します。

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リブラの新たな4つの変更点

LibraのWhitepaper v 2.0で新たに示された主な変更点は以下の4点です。

①新たに単一の法定通貨を担保とするステーブルコインをサポート

Whitepaper v2.0で示された変更点の一つ目は単一の法定通貨で担保されたドルやユーロなどのステーブルコインを新たにサポートすることです。これが意図するところは、Libraステーブルコインが各国の法定通貨と競合するものではなく、それを補完するものであるという姿勢、今後確立するであろう国際基準と各国の規制にLibraステーブルコインが準じる体制を取るという姿勢が推察されます。

②従来のバスケット型ステーブルコインは存続

単一通貨担保によるステーブルコインのサポートが加わることで、当初構想していたバスケット型ステーブルコイン(LBR)が廃止されるわけではありません。文面にも記されているように、LBRはネットワーク上に存在する1)の単一通貨ステーブルコインで構成され、引き続き存在します。また将来的にCBDCが実現した場合はバスケットに組み込むことが記されています。

LBRと1)の単一通貨ステーブルコインの違いは、後者が国内決済向けであるのに対して、前者はクロスボーダー決済に利用することを目的としている点にあります。

③スイスの決済システム(FINMA)ライセンスを申請

ホワイトペーパーにはLibra Associationがスイスの決済システム(FINMA)のライセンスを申請中であることが記載されています。これはスイスの監督法に基づくライセンスプロセスの開始を意味するものですが、その手続きの結果や期間については未確定です。今回の審査対象には先に挙げた単一通貨ステーブルコインと新たなLBRトークンの両方が含まれます

④AML/CFT基準を含むコンプライアンスとリスク管理の枠組みを実施

Libra Associationは規制当局からのフィードバックを受け、ネットワークのリスク管理に加えAML/CFT基準を含む財務コンプライアンスのための包括的枠組みの作成に取り組んでいます。

その取り組みにはマネーロンダリング情報を取り扱うFIU機能の設置やLibraネットワークへの参加者(ディーラーや取引所、ウォレットを含むサービスプロバイダー等)に一定の基準を設けることが含まれます。つまり、ウォレットはKYCなどを行うことが義務化されるでしょう。また、重要な点として、Libraが当初移行を表明していたようなパーミッションレスシステムは、そのゆるやかなネットワーク構造から規制が困難であることが指摘されています。

新たに示された変更点から考えるリブラの意図

以上の変更点は各国の中央銀行や規制当局の懸念を踏まえた上でそれを回避しようとするLibraの姿勢が垣間見えます。Libra Associationは当初参加を表明していたVisa、Mastercard、eBay、Paypalなどが主要プレイヤーが規制当局らの懸念を踏まえ撤退し、立ち上げ当初から多くの挫折に見舞われてきました。

Libraプロジェクトがこれまでに懸念されていた点を整理すると、まず前提としてLibraがGSC(グローバルステーブルコイン)となり得る可能性があること、そしてそれを規制する既存の国際基準が存在しないことがあります。

その前提の上でLibraステーブルコインがシステミックリスクをもたらす可能性、将来的にパーミッションレスな形態を取ることで責任の所在が不明瞭になる懸念(規制困難となる)、マネーロンダリングやテロ資金供与に利用される可能性、さらに独占禁止法上の懸念や各国の金融政策に与える影響などさまざまな懸念点が挙げられていました。今回の変更ではそのフィードバックを踏まえて、設計に変更が加えられており、ローンチが待たれるところと言えるでしょう。

参考
Libra Whitepaper v2.0

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