分散型金融(DeFi)の注目が高まっています。DeFiが、従来の暗号資産市場でも最も活用されていた取引手段である中央集権型取引所(CeFi)を駆逐するのではないかという意見もあります。今回はいくつかの観点で、DeFiが中央集権型取引所と比べて構造的に有利な点を改めて網羅しましょう。CeFiと比較した際のDeFiの優位性は主に5つのポイントに整理できます。
DeFiに優位性がある5つのポイント
コンポーザビリティ
DeFiにはマネーレゴと呼ばれる特性があります。他者が開発した既存のプロトコルや流動性プールを組み合わせて新たなサービスを提供できる、あるいは新たなサービスの一部として活用できるという特徴です。
また、最近では既存プロトコルだけでなく他のアプリケーションもプロトコルのように扱い、さまざまなプロダクトが繋がることが当たり前になりつつあります。例えば1inch Exchangeは裏側でユニスワップ(Uniswap)と流動性を接続しながら、1inch Exchange自身での流動性プールも持っています。つまりは、ある開発者がさまざまなプロトコルの組み合わせによって製品を開発してリリースしたとして、またそのサービス自体もサードパーティーのプロダクトに組み込まれる可能性があります。
構造的コスト優位性
DeFiの構造的コスト優位性の一部は、従来のCeFiが負担しているさまざまなコストをブロックチェーンに押し付けていることに由来します。具体的には取引のマッチングエンジンやカストディなどの機能です。これらの機能をブロックチェーン上で実行するようにしたり、ユーザーが自身の責任で行うようにしたりすることで、DeFi事業者は構築や保守のコストを安く抑えることが可能です。
また、新しいコインのリスティングの際には中央集権型取引所は丁寧な選定作業を行っていますが、UniswapなどのDEXでは新しいコインはユーザーが勝手に流動性プールを作成できます。結果としてUniswapで取引できるコインの種類は中央集権型取引所最大のバイナンス(Binance)よりも多くなっています。このように多くの種類のコインを取り扱えるというDEXの特性は、取引所のロングテールとでも呼べるかもしれません。Amazonが登場した際、既存の書店より多くの種類の書籍を扱えるロングテールという特徴をユーザーにとって利点として訴求していましたが、DeFiではCeFiに対して同じくロングテールを強みにしています。
トークンエコノミクス・分散コミュニティ
トークンエコノミクスでエコシステムの参加者を調整したり、流動性マイニングで初期の取引高を集めたりすることができる点もDeFiの特徴として挙げられます。多くのDeFiプロジェクトがトークンを配布してユーザーを集めています。
また、多くのプロジェクトはそのトークンを媒介にして、コミュニティの形成や開発指針の決定を行うことで、プロジェクトの長期的成功を実現する方針を掲げています。コミュニティドリブンで開発できるフェーズまでたどり着くプロジェクトはわずかですが、有機的なコミュニティを保有するプロダクトの開発スピードはすさまじく早く、市場で存在感を高めます。
この点で成功しつつある事例としては、ヤーン・ファイナンス(Yearn Finance)が挙げられます。新たな機能やプロダクトの企画と開発、マーケティングがコミュニティ主体で行われるようになったとき、従業員すら存在しないプロジェクトが従来の株式会社を上回るプロダクトをデリバーし始めます。
DeFiのユーザーエクスペリエンスが優れている点
従来のDeFiに対する見方は、初心者が使いにくい、あるいは初心者でなくともユーザーエクスペリエンスが悪いと感じるという意見が大半でした。しかし2020年10月現在、一部のユーザーの間ではその意見は異なるものとなっています。筆者もその一人ですが、DeFiを使い慣れている一部のユーザーにとっては、もはやDeFiは中央集権取引よりも使いやすいものになりつつあります。以下の例を見てみましょう。
中央集権型取引所を使って欲しいコインを入手する場合、そのコインを取引できる市場をCoinMarketCapなどで検索して探さなくてはなりません。そして、その中で最も取引高が多い取引所を見つけてその取引所にビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)を送金する必要があります。また、その取引所を初めて使う場合であれば、アカウント登録とKYCが要求されます。この一連のフローはDeFiを使い慣れたユーザーにとってはもはや非常に面倒な行為です。
DeFiであれば一つのイーサリアムアカウントで数多のサービスを利用できます。Uniswapでは全てのERC20トークンが交換可能です。また、購入したトークンはそのまま別のレンディングサービスに送金せずともコンパウンド(Compound)でレンディングが可能です。
もっともこのようにDeFiの使いやすさを主張するユーザーはまだ少数派でしょうが、その構造的特性からDeFiのユーザーエクスペリエンスは中央集権型取引所を上回る可能性があることは考慮すべきでしょう。
規制を無視している
一方、ここまでDeFiの凄さや優れた点を述べまてきましたが、これらの特徴とその急成長は規制を度外視していることにも留意すべきです。この点においては、2017年のICOブームと近しい点があることもまた事実です。
ただしそれでも、このような特性をこの数年で形成し、小さくない経済圏を作り上げていることは事実であり注目に値するでしょう。また一部のプロジェクトは規制をしようにもできない状況になっています。例えば、Synthetixはファウンデーションが解散しており、分散ガバナンスでプロジェクトが進行しています。
数年で取引所ビジネスは大きく変わる可能性
今回はで、DeFiが中央集権型取引所と比べて構造的に有利な点を網羅しました。もっともこういった課題は、BinanceやFTXなどのグローバルで存在感を示す取引所事業者は認知しており、さまざまな施策を展開しています。
今後、数年で取引所ビジネスは大きく変革するはずで、競争構造も今とは異なっているものになるはずです。
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