第5回:STO(セキュリティ・トークン・オファリング)が市場にもたらす変革や発展の可能性まとめ

Node Capital調査センター
朱子川

本コラムは、仮想通貨・ブロックチェーン業界で非常に重要なトピックと話題の「STO(Security Token Offering/セキュリティ・トークン・オファリング)」について解説しています。

5回目更新の今回は最終回となります。これまで(第1回~4回)はSTOの基本概要、SEC登録届出プロセス、STO実施時に適用される免除規定、STO市場のエコシステムや主要プレイヤー、STOに力を注ぐ取引所の概観などをお届けしてきました。

5回目となる最終章は、今後STOが市場にもたらすであろう変革についてまとめていきます。

▼過去記事
第4回:STOに力を注ぐ仮想通貨取引所・証券取引所の解説

STO(Security Token Offering)が市場にもたらしうる変革

セキュリティトークンは決済サービスにおけるコストを削減できる

第5回:STO(セキュリティ・トークン・オファリング)が市場にもたらす変革や発展の可能性まとめ

セキュリティトークンの取引にかかわる処理は自動でスマートコントラクトを経由して実行されるため、従来の中央集権的な決済期間にかかるサービスコストを削減することができます。

STOは中央集権化をもたらす可能性がある

STOのICOと比較した時の大きな特徴の一つは、株式、債権、配当、転換権といった現実世界の権利が含まれていることです。権利の強制執行は、オンチェーンでのコードによる自動執行か、オフチェーンでの法執行によって行われます。

現在コードで保障できるのはオンチェーンに存在するデジタルアセットに関する権利のみであり、現実世界に関連付けられた資産に関する権利は、未だ中央集権的な法律や規制により保護されているため、中央集権的な監督機関や法執行機関が必然的に再び登場することになります。

STOによるイノベーションは資産を証券化できる点ではない

STOの本質は資産を証券化できることではなく、資産の所在・所有を証明できることにあります。資産の証券化自体はそれが非上場企業の株式であろうが、債券市場、不動産、あるいは実物資産であろうが、新しい単語ではありません(あくまでもSTOで実現されるのはプライベートエクイティ市場、ABS(※1)、MBS(※2)、REIT(※3)、株式市場といった類の概念は以前から存在していました)。このように、セキュリティトークンはあくまでもトークンを資産と権利を表象する形式に過ぎないのです。

※1:ABS=Asset-backed securities/資産担保証券
※2:MBS=Mortgage-backed securities/不動産担保証券
※3:REIT=Real Estate Investment Trust/不動産投資信託

STOの最大の役割は、市場越境的な資産の相互運用にある

たとえば、従来の株式市場では、同じ株式が異なる取引所で異なる価格(A株やH株といったプレミアム株など)を有することがしばしば発生します。STOはクロスマーケットでの資産の相互運用を可能にし、ゆえに異なる取引所での評価差額を平準化することが可能になります。

セキュリティトークンの短期的な流動性は当然とは考えられない

一種の有価証券として、セキュリティトークン(ST)は発行後に一定期間ロックされねばなりません。その後に適格投資家(※4)による取引のみ可能になり(RegDが12ヵ月、RegA+の適用に関しては今の所成功の事例無し)、そして大部分の投機的な仮想通貨投資ユーザーは置いてけぼりにされ、必然的に流動性はあまり高くなりえません。単に取引の時間を増加させるだけでは流動性は増加しません。

※4:適格投資家(accredited inverstors)の定義
過去2年間の年収が20万ドル(約2,300万円)以上であり、(または配偶者と合わせて30万ドル以上)、今年も同等の年収が合理的に期待できる;若しくは自分自身または配偶者と合わせて(主要な居住地を除く)純資産で100万ドル以上を保有している;銀行、パートナーシップ締結企業間、法人、非営利団体、信託会社などの自然人以外の実体に関しても適格投資家になることができます。

STOは資産の流動性向上の可能性やバブル促進の可能性

中期的には、STOは資産の流動性を向上させる可能性を秘めていますが、バブルを促進する可能性もあります。ロックアップ期間満了に伴い、セキュリティトークンが二次流通市場で取引されるようにナルト、投資家はこれまで少額投資ではリーチするのが難しかった非上場企業の株式、債券、REITなどのアセットクラスへの投資機会を得ることができるようになります。

そうなると、一定程度これらの資産の流動性や評価水準が上がることになります。しかし少額投資家はこれらの専門的な金融資産に対する投資の評価に関する知識が不足しており、時には短期的な市場感情を増幅させ、結果として資産価格のバブルを招く可能性があります。

オールドマネーの参入は既存のICO市場を救えない

第5回:STO(セキュリティ・トークン・オファリング)が市場にもたらす変革や発展の可能性まとめ

現時点では、ICO市場における大部分のアセットはコンプライアンスを遵守しておらず品質も高いとは言えず、そしてそれらのほとんどには実質的な価値によるサポートが欠落しています。もし伝統的なファンドがSTOを通じて仮想通貨市場に参入したとしても、このようなプロジェクトに投資することは困難です。

大部分の小規模~中規模のICOプロジェクトにとってすら、SECの条件に適応し、対応するサービスプロバイダを探し出すことについてのコストはすでに高くなっており、STOもまた、彼らにとっては魅力的なものとなることは困難です。

STOは市場プレイヤーの栄枯盛衰を早める

他方で仮想通貨機関と投機的なプレイヤーにとってはSTO市場でICO市場の栄光を再現することは非常に困難です。一方面としてはコンプライアンスに対する監督機関の要求はさらに厳格になり、多くのメソッドはシーンの裏に隠れてしまいます。もう一方面として、専門的な金融機関の参入によって、機関にとってのSTO投資の要件はさらにハイレベルなものになっていくでしょう。

結論:機会とリスクの共存

STOは技術的な観点から見れば大きなイノベーションではなく、本質的にはウォールストリートがブロックチェーンのブームを利用して資産の証券化と証券の認証化を組み合わせて生み出した新しい概念です。この市場において取引所、プロジェクト当事者、投資家の数はICOよりはるかに少なくなると予想できますが、参入プレイヤーはよりプロフェッショナルになるでしょう。

この新しいオルタナティブ投資市場が円滑に発展するかどうかの核心は、プロジェクト自身がトークン化し資金調達を実施するのに十分な裏付けとなるような質が担保された資産を保有しているどうか、そして市場の中のメインストリームとなる投資家が資産を価格付ける適切な方法を見つけられるかどうかにかかっています。

連載「STO解説コラム」
第1回:STOの基本概要~SEC登録届出プロセスまで解説
第2回:STOに適用の免除規定~コンプライアンス要求まで解説
第3回:STO市場のエコシステム~主要プレイヤーまで解説
第4回:STOに力を注ぐ仮想通貨取引所・証券取引所の解説
第5回:STOが市場にもたらす変革や発展の可能性まとめ

参考
一文读懂Security Token,以及Security Token 2.0堆栈
Securitize whitepaper

・Cryptoeconomics:監修
CryptoAge Meika Miyamoto氏(@meikamiyamoto97):執筆

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