
FATF(金融活動作業部会)が6月に暗号通貨の規制に対する解釈ノート・ガイダンスを発表しました。
本件について、オピニオンコラムという形で触れます。各メディアで報道されている通り中期にわたりFATFの動向が、事業者やユーザーに与える影響は多いでしょう。
また、本件に関して筆者は法律や規制の専門家ではないことを明記しておきます。今回のコラムでは概要説明と、ユーザーとして本件の影響予想や所感を述べるものです。本コラムは、法的なアドバイスでは一切ありません。
FATF(金融活動作業部会)とは?
そもそもFATFとは何かという点から触れます。FATFは、マネー・ロンダリング対策における国際協調を推進するため設立された政府間機関です。1989年のアルシュ‐サミット経済宣言により設立された政府間機関で、マネーロンダリング対策やテロ資金対策などにおける国際的な協調指導、協力推進などを行います。
国際基準の策定や加盟している国への勧告、勧告遵守の推奨など指導的役割も担い、G7諸国を含む35か国と二つの地域機関(EC・GCC)が加盟しています。FATFはあくまで複数の国が加入する政府機関で、特定の国での法施行は行いません。しかし、FATFで定められたガイダンスに乗っ取り、各国は法律と規制を設計していくことになります。
FATFは各国の規制を施行する立場にはなくとも、違反している国は金融規制が行き届いていない国と判断され国際的にレーティングが下がることや、新興国などであれば世界銀行や国際通貨基金(IMF)から融資を受けることができなくなります。
当然、同機関は暗号通貨だけでなく、銀行の管理体制や国際送金に関わるさまざまな事項のガイドラインや勧告遵守のアナウンスなどを行っています。
公表されたガイダンスでは、2月に発表された提案の流れを踏襲するもので、VASP(仮想資産サービスプロバイダー)に対して送金する際に必要な情報として以下の項目を挙げています。
- 送金者・オリジネーターの氏名
- 送金処理を行うために利用される、オリジネーターの口座番号・ウォレット等
- オリジネーターの住所、国民識別番号あるいは顧客の識別番号など、オリジネーターの利用機関や利用日、出生地などの情報
- 受益者・受取側の氏名
- 取引を行うために利用される受益者の口座番号・ウォレット等
FATFのガイドラインに集まる批判
既に上述したように各国当局は、ガイダンスにある程度従い暗号通貨に関する規制を設計していくことが考えられます。しかし、このガイダンスについては暗号通貨業界の各メディアや有識者から多くの批判が集まっています。
暗号通貨業界からは批判の種になっているのは、このガイダンスに、「業者間で仮想通貨を移動する際、送信者だけでなく受信者のKYC(本人確認)情報も求める」という基準が含まれている点です。
これに伴う規制が設計される場合、真っ先に影響が出る事業者は取引所です。取引所は送金先のアドレスのKYCを取得しなければいけないですし、クロスボーダーの取引所と連携は困難です。この点で事業者のコンプライアンスコストは非常に高くなり、そもそもこれを遵守することが根本的に難しいという声やイノベーションを阻害するという声も多く出ています。
明確に遵守する場合、そもそも国境をまたいだトランザクションが気軽に行えなくなることから、現在流行しているIEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)などのようなことも現実的ではなくなるだろうと思われます。
そもそも暗号通貨はアイデンティティ情報を一切公開しないで送金ができるように元から設計されています。そのためサービスプロバイダが受け取るトランザクションは、他の取引所からの送金なのか、個人のウォレットなのか識別はつきません。これを完全に識別することは技術的に不可能です。
適切な批判と適切でない批判
一方でそれらの批判に妥当ではない部分があるという意見もあります。ワシントンの弁護士であり複数の暗号通貨・ブロックチェーン関連の事業者を顧客にするジェイク・チェルヴィンスキー(Jake Chervinsky)氏はFATFの報道についてクリプトメディアは誇張しすぎであると意見しています。
0/ The Financial Action Task Force (FATF) just published new guidance on anti-money laundering regulations for “virtual assets.” From media reports alone, you might think it was an unprecedented assault on crypto.
Of course, it wasn’t.
Here’s what you should know. Thread
— Jake Chervinsky (@jchervinsky) 2019年6月22日
FATFはあくまで各国レギュレーターがフォローすべき推奨コンプライアンスの項目であって、それ自体は法律ではありません。チェルヴィンスキー氏は、過去のアメリカの規制をみてもFATF事案がフォローされていない事案はあるという主張をしています。
一方で日本だとこれはちょっと事情が違います。前回のFATF審査で評価が悪かった日本は今回の審査でも点数悪いと、国の金融機関全体のレーティングが下がったり、国際送金が制限されたりする可能性があります。そのため他の国よりFATFをフォローするモチベーションが高く、そういった意味で各国の俯瞰と日本のローカル事情では異なる視点が必要です。
参考
・VIRTUAL ASSETS AND VIRTUAL ASSET SERVICE PROVIDERS
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