【前編】TCR:トークンとゲーム理論を用いてコミュニティでレジストリを作る方法とは?

本コラムでは、Token Curated Registry(以下:TCR)について考えます。TCRは、トークンを用いたゲーム理論、インセンティブ設計によって、分散的にデータレジストリ・ブラックリスト・メディアリストなどを作成できるという構想です。

TCRは単一のプロジェクトを指すのではなく、トークンのアーキテクチャの一種です。この仕組みは賛否はありますが、2018年から話題になり、さまざまなプロジェクトがアイデアを取り入れたり、部分的に実装が進んでいます。例えば、その一つはヒューマニティー・ダオ(Humanity DAO)で、ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏なども取り上げ、話題になったプロジェクトです。

参考:Humanity DAOの概要・設計。コミュニティで管理をするアイデンティティシステムとは

前提:TCRが解決しようとしている問題

分散的なデータベース、ブラックリスト等を公平なガバナンスを用いてリストをしようとすることは困難です。例えば、優良なレストランをリストするサイトを作ったとして、誰も管理しないデータベースならば、不良店が混ざるかもしれないですし、店舗が自分のお店を入れてランクを上げようとするかもしれません。

また、特定の法人が中央集権的に管理をする優良なレストランをリストするサイトがあったとしたら、もしかしたらその管理者は優良なレストランを選定する能力は優れているかもしれませんが、本当に公平に選定をしているのかや、一部のレストランから賄賂を受け取り、レストランをリストしているかもしれません。

暗号通貨・ブロックチェーンの情報も同様で、情報価値の高い記事やレポートは少なく、それを効率的、かつ信頼できる仕組みでキュレーションをすることは今のところあまりできていません。

そういった問題の解決手法としてTCRというアーキテクチャが考えられています。トークンを用いた投票モデルによるゲーム理論を使用したアーキテクチャで、例えば下記のようなものを分散的に管理できると期待されています。

  • Wikipedia
  • ブラックandホワイトリスト
  • ランキングサイト
  • ニュースキュレーション
  • 論文の評価

など。

TCRは、2017年後半から話題になり始めて、コンセンシス(ConsenSys)のマイク・ゴールディン(Mike Goldin)氏やジェームズ・ヤング(James Young)氏、 アミーン・ソレイマーニー(Ameen Soleimani)氏などが提案を始め、ゴールディン氏が下記のリンクでペーパーの形にまとめています。

参考:Token-Curated Registries 1.0

すでにいくつかのプロジェクトがTCRの採用していますが、ヴィタリックなどは、このTCRは過剰に騒がれているなどと指摘しており、レポートでは課題にも触れています。

TCRの基本的な仕組みを解説

TCRの基本構造として、エコシステムに存在をするプレイヤーは以下です。

リストされたいエンティティ(The Candidates)

レジストリにリストされたい人です。レストランのランキングなら、レストランになり、大学ランキングなら大学、またはそれらのステークホルダーのはずです。

トークンのホルダー(Token Stake Holders)

それぞれのレジストリにネイティブトークンが存在し、そのトークンはレジストリがより良いレジストリになるほど恐らく価値が高いはずであり、トークンホルダーは、より良いレジストリを作成するために合理的、利己的に投票行動などを行うと期待されます。

リストを見たい一般ユーザー(Consumers)

こちらはリストを見たいユーザーです。このユーザーに支持をされればされるほど、トークン価値は高まると期待されます。

リストされたい人は、トークンの一部をデポジットして、リストへの追加を立候補、または拒否をします。(拒否をするのはブラックリストの場合)

基本的に誰も反論をしない場合は、そのままリストに追加されます。しかし、もしその立候補に不満がある場合は、その他のトークンホルダーは、トークンを使用してそのプロポーザルを受け入れるかどうかをによって決定するガバナンスをスマートコントラクトで構築します。投票の過半数の意見が、承認または拒否され、リストが作成されていくという仕組みです。

全米の優良な大学をTCRで作成した場合

より具体的に例を見ていきます。全米の優良な大学をTCRで作成する場合を考えてみます。

前提

大学ランキングです。優良な大学にランクインすれば大学側は評価が上がり、入学希望者なども増えます。大学側は、このリストには入りたいとします。

大学による立候補

大学はリストされるためにトークンを購入します。100トークンをスマートコントラクト にデポジットをして、リストに応募します。

トークンホルダーによる精査

トークンホルダーは、この立候補について何も相違がなければ、そのままマージされます。しかし、異議がある場合、トークンホルダーは「チャレンジ」という行為を行えます。「チャレンジ」には、立候補者の大学と同等量のトークン、この場合100トークンをスマートコントラクトに最初に異議を唱えた人がデポジットします。

トークンホルダーによるチャレンジ

あるトークンホルダーによって特定の大学がそのリストに含まれるのは不適切であるというチャレンジが行われました。ここでその他のトークンホルダーによる、そのチャレンジを支持するかしないかの投票が行われます。この投票の票数は、トークン保有数をベースにします。投票期間は仮に一週間としましょう。

チャレンジの結果

一週間後チャレンジの結果によって、コミュニティからこの大学が優良大学リストに入れるのは不適切であるとトークンホルダーの投票により判断されました。この場合、大学がスマートコントラクトにデポジットしていたトークンは、最初にチャレンジを提案した人と、その提案を支持したトークンホルダーの間で振り分けられます。

逆にチャレンジの結果、コミュニティからこの大学が優良大学リストに入れるのは適切であると判断され、つまりチャレンジをした異議のほうが不適切であるとコミュニティが判断したとします。この場合は、チャレンジをした人がデポジットしたトークンが、立候補した大学と、チャレンジの拒否に投票をしたトークンホルダーの間で振り分けられます。

以上の提案と分配を全てスマートコントラクトで実行します。ビジュアライズすると下記のようになります。

TRCビジュアル
出典:Simon De La Rouviere Medium

トークン価値を上げるために正しい行動に期待

トークンホルダーは良いリストを作り、トークン価値を上げるために利己的に正しい投票行動をするはずであると期待されています。良いリストを作るとなぜトークン価値が上がるかというと、そのリストにはより多数の立候補者や、それに投票をしたいステークホルダーも増えるはずであり、トークンを購入したい人は増えると期待されるからです。

一度レジストリにリストされた大学を削除したい場合も、同様のチャレンジを用いて、大学をレジストリから削除提案をすることもできます。

ここまでがが大まかなTCRの形式です。次回以降で、これを採用したプロジェクトでどのようなことが可能になるか、さらに詳細に考えていきます。

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