
イーサリアムのスケーラビリティ問題解決の一案
2019年8月より、イーサリアム(Ethereum)のエンジニアと研究者によるチームが、ヴィタリク・ブテリン(Vitalik Buterin)氏が後の普及を考える「オプティミスティック・ロールアップ(optimistic rollups)」に基づく開発を開始しています。これは米ブロックチェーンのベンチャー企業であるコンセンシス(ConsenSys)のジョン・アドラー(John Adler)氏によるスケーラビリティ問題解決の研究に基づいたものです。
アドラー氏は、レイヤー1へのコンセンサス変更を伴わずに、イーサリアムのスケーラビリティ問題を解決する方法を説明しました。この方法によって、主にテザー(Tether)などのERC-20トークンによって引き起こされるイーサリアムのトランザクションにおける膨張状態も軽減できるということです。
このチームでは、ブロックチェーンにおける最も需要のあるアプリケーションはステーブルコインでの支払いシステムだと考えており、その上でイーサリアムが拡張性を持続しつつ、安価な手数料かつ信頼性の高いシステムを目指して、開発されているのが「フューエル(Fuel)」というサイドチェーン技術です。
持続的なスケーラビリティ
これまでのところ、ERC-20トークンのトランザクション処理量は、1秒間に10件以下と厳しく制限されています。この制限は主に、ステート(口座残高とスマートコントラクト数)に起因しており、さらに非圧縮部分のデータサイズが45GBもあることから、RAMメモリには収まりきらないのが現状です。特にトークンの取引処理時には、ディスクへのアクセスが多量に発生してしまっています。
ステートの膨張は、イーサリアムにとって最大の問題で、未だに解決できていません。このような膨張やアクセスを増やすことなく、スケーラビリティを拡張できるのが理想としていたところ、トランザクションのコールデータ使用によって実現可能になるとのことです。単純にサイドチェーンのトランザクションデータをメインチェーンに投げ込み、そのデータ検証処理を行うだけで、イーサリアムのベースレイヤーからステートへのアクセスを極小とすることが可能です。
オプティミスティック・ロールアップとは
Fuelはアドラー氏が投稿したスキームである「最小限に実行可能な合理的コンセンサス(Minimal Viable Merged Consensus)」基づいて構築されています。
これは、オンチェーンデータの可用性・正当性と、トラストレスで手軽なサイドチェーンの性質を両立するための、サイドチェーンの仕様を最小とする考えで、現在ではそうした仕様は「オプティミスティック・ロールアップ」と呼ばれています。
オプティミスティック・ロールアップの仕様は、シャドウチェーン(shadow chains)やプラズマ(Plasma)といった他のスケーラビリティ拡張提案とは異なった特性を持っています。まず、誰かが明白に支払い意思を示さない限り、オンチェーン処理がされることはなく、また非対話的証明を利用することで、チェーンへの攻撃にも抵抗力を持ち合わせています。
Fuelの概要と目的
Fuelサイドチェーンは、イーサリアムチェーン上での大量の支払いプロセスのみを処理するように設計されており、イスタンブールアップデート以前でのコストと比較して、約5分の1にまでERC-20トークンの取引コストを削減します。Fuelはペイメントチャネルを構築する方法とは異なり、即時完了を約束するものではありませんが、手軽で安価な、担保を必要としないトランザクションの提供を目指しています。さらにFuelは、半許可不要の処理モデルを提供することで、即時処理を可能としています。
使用例として、取引所間におけるトークンの移動に関わる手数料コストの軽減が可能です。これによりERC-20トークンの資産価値を下げることなく、必要なコストを5分の1にまで減らすことができるでしょう。クライアント側の拡張性を最大化するため、Fuelはあらゆるパソコンやスマートフォンで簡単に確認できる、未使用トランザクション・アウトプット(UTXO)モデルを活用しています。
見通しでは、イーサリアムのトランザクション処理能力を、現在のおよそ5倍となる50TPS(1秒あたり50件)にまで引き上げ、イスタンブールアップデートが完了すれば、200TPSにまで向上できる可能性があると考えられています。
参考
・Fuel: Scaling Token Payments 10x Today, 50x in the Near Future
・Minimal Viable Merged Consensus
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