自分の言葉で生きていく覚悟を持てば、世の中はもっと面白くなる【サインコサイン・加来幸樹インタビュー】

「自分の言葉で語るとき、人はいい声で話す」を信念に掲げ、ネーミングや企業理念・個人理念など覚悟の象徴となる言葉を共につくる株式会社サインコサイン代表の加来幸樹氏。
BITDAYSでは、なぜ企業やサービスに言葉が必要なのか?言葉によって何が変わるのか?加来氏に訪ねてみた。

内に秘めている「覚悟」を「認識」させる

Q:サインコサインの事業内容にある「企業や商品・サービスに関わる様々な言葉やアイディアの共創支援」とは具体的にどういったものなのでしょうか?

A:「言葉」と書いてるんですけど、言葉そのものへの対価をいただいていると誤解を招くかもしれません。僕が仕事にしているのは「言葉」の中でもネーミングや会社の理念、またブランドのタグライン(提供価値を世の中に宣言する短い文章)などが中心です。それらが何のためにあるかというと、彼らが覚悟を決めて、その先のビジネス・活動をしていくために必要な、重要な指針になるものだと思っています。

だからこそ、僕はそれをこちらから一方的に提案するのではなく、当事者たちも巻き込みながら一緒に言葉をつくることで、そのプロセスも含めて彼らにそのビジネスや活動を行っていく覚悟を決める支援をしています。つまり、その「覚悟」に対する対価をいただいている覚悟で、日々仕事をしています。

Q:「覚悟」をつくる仕事ですか。

A:ただやはり覚悟を持てるというか、作って掲げられるのはその当事者である方にしかできないことなので、僕が「覚悟をどうぞ」って売ることはできないんですよね。だからこそ本人が本気で言葉をつくるところから参加して、その人の中にきちんと覚悟が芽生えて認識して掲げてもらえるような支援、手伝い、後押しをしていることに対して対価をいただいているというほうが正しいかもしれないですね。

迷った時に信じ続けられるものが「覚悟」であり「言葉」

Q:なぜ企業やサービスは言葉や覚悟が必要になるのですか?

A:年号が令和に変わったのも記憶に新しい中ですが、ひょっとしたら少し前まではこういうことをすれば成功できます・売れますみたいな、正解・成功するためのルールやレールってある程度はあったかもしれません。しかし、すごく不確実性が高くて、変化もとても激しい時代になっている中でいうと、なかなかこれをやったから正解みたいなこともなくなってきているわけですよね。ではそのような時代の中でも成功するにはどうすればいいのか。過去の歴史も物語っていたりもするのですが、正解がないからこそ他の誰でもなく自分はこうするんだという強い信念をきちんと持つことが大切です。それこそが周りの共感を呼ぶことにもなったりします。

そして、その上で何かをやったからといって簡単に結果が出たりもしないからこそ、何かを信じてやり続けるしかないとも言えるわけです。その中でも、困った時にも頼りにできたり、大変な状況の中でも信じ続けられる象徴が人には必要になると思っていて、中でも言葉という形式はとても思い出しやすかったり、みんなで共有もしやすいので、掲げる必要性がとても高まっていると思います。

サービスの価値を表す言葉がサービスを成長させていく意志にも繋がる

Q:実際に企業に提供しているものはどんなものになるのですか?

A:例えば最近だと、皆さんもよくご利用されているブックオフさんが少し前にリリースした買取サービスの新サービスとして「スマホで受取コース」のネーミングを一緒につくらせてもらいました。店頭で買い取りの査定をしている間の時間は店内で待った上で現金で査定金額を受け取る。というのが従来の買取の流れだったんですけど、「スマホで受取コース」はお店カウンターに持っていくだけで、待ち時間も一切なく買取金額も現金ではなくキャッシュレスのかたちで受け取れるというサービスです。

また、「スマホで受取コース」が新たにできたことにもあわせて「すてるより、すてき」という、ブックオフの買取サービス全体の価値を表す言葉も一緒につくりました。やはりこういった象徴的な言葉があることによって、お金がもらえるというだけの価値だけでなく「ものを捨てるよりも素敵な選択肢である」という覚悟を持って、ブックオフの買取サービスを成長させていくことにも繋がっていきます。

他の事例としては、渋谷を拠点に全国で活動している朝活コミュニティの「朝渋」さんの理念もつくることを手伝わせてもらいました。「朝はあなたの可能性が目覚める時間」を、彼らのビジョン(信念)として言語化したのですが、これにより彼らの活動にも、より可能性を目覚めさせるようにやっていかなければという強い意志が入るようになります。早起きするだけじゃなくて、そこでちゃんと可能性も目覚められるように有名な著者の方を呼んできて、有益なインプットの時間にしてもらおう、とか。
またこのビジョンが、コミュニティメンバーのその先の人生や仕事にも活きるようにより深いメンタリングやコーチとしてのアドバイスを提供するサービスの新たに作るきっかけにもなったようです。

個人の覚悟が人生をより豊かにする

Q:加来さんは企業やサービスだけでなく個人に向けても「個人理念」と呼ばれる理念を作っていますね。個人にも理念は必要なのでしょうか?

A:ここまで話してきたような企業やブランドの覚悟の象徴となる理念は、その言葉をつくること自体が目的・ゴールではありません。その理念にどんなときも向き合い続けること。そして、その理念が成し遂げられることをもって初めて作った意味があったいえると思っています。

そして、それを成し遂げているのは誰なのかと考えると、それはその企業やブランドに所属していたり、信じてついてきてくれている一人一人の人間、個人の人たちに他なりません。その人たちが企業やブランドの理念を自分事化して、当事者意識を持って自発的に頑張っていけるためには何が必要なのかをずっと問い続けてきました。

そこで思い至ったのがひとりひとりの個人も企業やブランドのように理念を掲げるべきではないか?ということです。役職的な意味で経営者ではなくても、誰しも自分という器を経営している経営者と捉えることもできます。そう考えると、自分自身を理想に向けて経営するための理念。つまり、企業を経営するための企業理念が重要なのと同じくあるいはそれ以上に、ひとりひとりの個人を経営するための個人理念が重要になるはずです。


そして、時代の変化も相まっていよいよ企業と個人が対等な関係になることが求められる中では、企業の理念とそこに参画する個人の理念に「ここはたしかに重なっている/親和性がある」と認識されて、またそのことが仕事や活動の動機になっている状態、つまり双方の理念がシンクロさせることがそれぞれの理念の実現のために不可欠なことではないかと考えています。

しかし当然ながらそのように認識できるためには、まず自分の個人理念を掲げられていることが絶対に必要になるので、実は企業理念が成し遂げられるためには、まずそこに関わっていく人ひとりひとりの理念をつくることもサポートしていくようになりました。

Q:やっぱり個人でも言葉として自分の覚悟を決めるものを持っていたほうが、より人生が豊かになるということでしょうか?

A:それはそう思います。より困難な課題が立ちはだかり柔軟な変化や対応も求められる時代だからこそ、仕事でもプライベートでもあらためてより良い「パートナシップ」の構築が欠かせなくなります。より良いパートナーシップが築ける会社に所属し、より良いパートナーシップが築ける同僚と働き、より良いパートナシップが築けるパートナーや友達と生きていく人生のほうが絶対に幸せになれるはずです。

そして、より良いパートナーシップが築けるかどうかの判断材料になるのが、それぞれの理念。向かおうとしている方向が同じだったり、価値観に明らかな親和性があったり、相性が良いところがそれぞれの理念にあるのかどうかがとても重要になります。自分の理念を掲げるということはより良く働くという意味でも、さらにより良く生きていくという意味でも、とても重要なことになっていくんじゃないかなと思いますね。

Q:今後「言葉」や「覚悟」というキーワードを使って、加来さんが作っていきたい未来や社会を教えてください

A:僕の経営しているサインコサインは理念として「自分の言葉で語るとき、人はいい声で話す。」と掲げていますが、これはもっとこの世界が面白くなるために必要な価値観だと思っているんです。今の世の中はすごく便利になりましたし、理不尽な制約や条件もどんどんなくなりつつあって、世界のどこにいても誰でも何でも挑戦しようと思えばできるようになってきていると思います。

それでもどこか、こんなに便利で豊かな環境が整っていても、なんだか不幸せな感じやどこか窮屈で生きにくい感じがするのは、きっとまだまだ自分の言葉で生きている、言い換えると自分を主語に、自分を起点にいろんな行動を起こしたり、意思決定がされることが少ないからなのではないか。極端に言えばこの資本主義というとても優れた仕組みがあまり活かされ切れていないんじゃないかなとも思うわけです。


でも、こうやって色んな便利な仕組みや豊かな環境が整ってきているからこそ、あらためて自分はこうやってに生きていくと覚悟を持てる個人や、こうやってビジネスをしていくと覚悟を持てる会社が増えていくことで、より良いパートナーシップが世界中にもっとたくさん生まれて、今よりもっともっと面白く幸せにみんなが生きていけるんじゃないかという想いがあります。そんな未来の可能性にも少しずつですが貢献していきたいと思っていますので、自分の言葉で語るステークホルダーたちにサインコサインのリソースをこれからもどんどん投資していきます。

今回のインタビュー動画はこちらから

加来 幸樹(かく こうき)
株式会社サインコサイン 代表取締役 CEO



2018年4月サインコサイン設立。『自分の言葉で語るとき、人はいい声で話す。』を信念に掲げ、様々なブランド、企業、個人のネーミングや理念、タグラインなど覚悟の象徴となる言葉を共創している。福岡県出身。ソフトバンクホークス信者の新宿ゴールデン街ルーキー。

インタビュー:NANASE

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