ビットコイン(BTC)2019年3月のマイニング環境を整理

前回記事によってマイナーの損益分岐が暗号資産トレーダーに強く意識される結果となり、大変嬉しく思っています。先月から引き続きマイニング装置の限界電力効率は「底」から一段上の水準を維持しており、本稿でこの点を踏まえて現在のマイニング環境について整理します。 (データは日本時間3/18取得)

ハッシュレートとディフィカルティ

ハッシュレートとディフィカルティの推移を図1で確認しましょう。

BTCハッシュレートとディフィカルティ
図1:BTCハッシュレートとディフィカルティ

ハッシュレートは上がっているのか横ばいなのか分からない程度のわずかな変化ですが、今年に入ってからは2017年秋頃に似たペースで増加していると言って差し支えないでしょう。旧世代機が潤沢に供給されている現在でのこの低い増加率は、各地のマイニング環境がいかに厳しいかを現しています。

ちなみに5月には中国四川省で雨季が始まり、その頃には電力単価が最大$0.01まで下がることから、100万台規模のマイニング装置が再稼働すると噂されています。これが事実だとすれば、近々ハッシュレートの急激な増加(もちろんディフィカルティも)が起きるかも知れませんね。

次の図2では \(r/D\) 比を見ます。変数の詳しい定義は初稿をご参照下さい。 \(r/D\) 比が小さくなれば、より高いASICの限界電力効率 \(f_{A0}\) が求められることになります。

ディフィカルティとr/D

図2:ディフィカルティと\(r/D\)

緑線がディフィカルティで赤線が \(r/D\) を表しており、先月記事を執筆した2月末時点からほとんど変化せず横ばいとなっています。変化がないので採掘コストの数字に移りましょう。

Antminer S9iの採掘コストとBTCUSDレート

例により、マイニング装置の加重平均的代表としてAntminer S9i(0.094 kJ/TH)ベースの1 BTC当たり採掘コストを推定します。図3では、BTCUSDの変動に合わせて、6.5 cent/kWhでコストを算定しており、新機種の稼働や昨秋急落以降の移設も多少考慮しての「電気料金他も込み込み6.5 cent」想定です。

6.5 cent/kWh運用下でのAntminer S9i採掘コストとBTCUSDレート
図3:6.5 cent/kWh運用下でのAntminer S9i採掘コストとBTCUSDレート

赤色で示すコスト線はBTCUSDから少し下に位置しています。2月はBTCUSDと同値になる事が多く、前回記事では「0.094 kJ/THで6.5 cent/kWhのコスト」という組み合わせがBTCマイニングの現況を表現できる一組の変数として紹介していました。コンスタントにマージンが生じるようになったのは、市場に幾らかの買い意欲が戻ってきた結果かと思いますが、断言するほどの自信はまだありません。

strong>図4は7 centに丸めた想定でASICの限界効率 \(f_{A0}\) を示します。

7 cent/kWh運用下でのASIC損益分岐電力効率

図4:7 cent/kWh運用下でのASIC損益分岐電力効率 \(f_{A0}\)

データ取得時点の限界効率は0.099 kJ/THと前回記事執筆時と同水準です。昨年11月末から0.09 – 0.10 kJ/THの範囲を長期間推移しており、投機的需要を除けばこの水準がやはりマイナーとして守りたい損益ラインなのではないでしょうか。

主要新世代機の収益性

図5は主要機種の1 BTC採掘コストを示しています。運用コストを5-9 cent/kWhの範囲で表示しており、装置の償却等を含みません。

各運用コスト下における新世代機らの採掘コスト
図5:各運用コスト下における新世代機らの採掘コスト

先月の$3900/BTCであった頃と同様に、S9iの場合現在の$4000/BTCでも7 cent/kWhで収益化が可能となり8 centで赤字になります。8 – 9 centで運用したいならばT15以上の性能を持つ比較的新しい機種の運用が必須です。

ただし新機種はこの計算に含めていない償却費が嵩む点に注意が必要です。従って、例えば6 cent以下の安価なインフラと労働力があるならば、無理して新機種を導入せず償却済みのS9等旧機種を引き続き運用する方が理に適うでしょう。

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